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秋の叙勲に本学から2氏

 この度,本学関係者の次の2氏が,平成26年秋の叙勲を受けることについて,11月3日(月・祝)に発表となりました。
勲   章 経    歴 氏   名
瑞 宝 中 綬 章  名誉教授(理学研究科) 引 地 邦 男
瑞 宝 単 光 章  元 北海道大学病院副看護部長 谷 口 満里子
 各氏の長年にわたる教育・研究等への功績と我が国の学術振興の発展に寄与された功績に対し,授与されたものです。
 各氏の受章にあたっての感想,功績等を紹介します。

(総務企画部広報課)



引地 邦男 氏

感 想

 この度,はからずも瑞宝中綬章の叙勲の栄誉を賜り,心から光栄に存じます。これも皆様方のお力添えと感謝申し上げます。
 私は昭和30年北海道大学理類入学から平成9年退職まで,一貫して北大にお世話になりました。昭和39年大学院物理学専攻を卒業し学位をいただき,新設の理学部高分子学科の古市二郎教授のもとに助手として採用されました。学部3年生の学生実験と4年生の卒業研究の指導を行うとともに,高分子の分子運動の研究に携わりました。古市先生の研究に対する姿勢は厳しく,時々行われる研究の進捗状況の御前報告では,しばしば「それはファクト(fact)か?」と聞かれていたことが思い出されます。修士2年の時,古市先生が機関研究費(今の科学研究費)で広幅核磁気共鳴装置(NMR)を導入され,私がそれを使って高分子の分子運動の研究をさらに押し進めることができました。分子運動の研究には当時いろいろな方法がありましたが,NMRが最も先端的な方法でしたので,私は「ラセン高分子の分子運動」と題する学位論文を書くことができました。昭和42年講師に命じられ,ほとんど同時にアメリカアルゴンヌ国立研究所生物部門へ2年間研究出張させていただきました。そこでは核酸のスタッキング構造をコンピュータでシミュレーションする仕事に携わり,大型コンピュータをふんだんに使うことができました。
 NMRには溶液状態で測定する高分解能NMRがあります。これは分子構造を決めるのに有効な方法で有機化学者がよく用います。私も「構造と物性の相関」を研究する上から高分解能NMRに興味を持ち,低温研,免疫研,工学部,薬学部,理学部化学科と,高分解能NMRを持つ研究室へ装置を借りに出かけてお世話になりました。そうしている間,私の研究室にも60Mzパルスフーリエ変換の高分解能NMRが導入され,13C共鳴の緩和時間の測定が容易になり,ラセン高分子の側鎖の運動を解析することができました。
 その後,超電導磁石が開発され,NMRにも利用される様になり,理学部にも当時世界最高級の500MHzパルスフーリエ変換高分解NMRが導入され,その運営の責任を私に任されました。分解能が格段に向上したので,タンパク質の構造解析も可能になりました。化学第2学科の八木教授と共同で,カルモデュリンのカルシウムイオン結合に伴う構造変化の研究を行いました。退職間際には,超電導磁石を用いた固体NMR装置も導入され,高分子ブレンドの研究に利用しました。
 最後になりましたが,これまで長い間お世話になった皆様に感謝申し上げますとともに,北海道大学のますますの発展をお祈り申し上げます。

功績等

 引地邦男氏は高分子物理学,生物物理学の教育,研究に努めました。特に,いち早く核磁気共鳴(NMR)法を用いた高分子物質の構造と分子運動の観測手段を取り入れ,蛋白質,核酸を含む高分子物質の性質と構造の関係について実験的・理論的研究を進め,我が国の高分子科学及び生物物理学の進歩と発展を促進しました。この間,理学部長・理学研究科長として大学の管理・運営に尽力し,全国に先駆けて大学院重点化を行い,本学の発展及び我が国の基礎科学重点推進政策に貢献しました。
 同氏の研究業績は大きく3つに分けられます。第一は,広幅NMRによる高分子固体の分子運動と固体物性の研究です。高分子を構成する原子の核スピン同士の相互作用や熱運動を観測し,固体中の高分子鎖の局所構造と分子運動特性の関係を調べ,従来の構造(X線回折)及び分子運動測定手段(力学緩和,誘電緩和)による結果と比較し,高分子の微細構造と巨視的な物性の対応関係を解明しました。長い側鎖を持つポリアミノ酸について,アルファヘリックス主鎖が無定形の側鎖の中に浮かんでいる2相モデル構造を提唱し,分子運動的に正当性を解明しました。また,ポリエーテル系高分子結晶中での高分子鎖の分子運動の広幅NMR研究や,X線回折の散漫散乱,温度因子等の構造情報から分子運動特性を解明する実験的,理論的研究を行いました。第二は,高分解能NMRを用いた生体高分子と金属イオンの相互作用に関する研究です。着目スピンの周りの微小な磁場環境の違いを検出できる高分解能NMRを,生体分子と常磁性金属イオンとの相互作用解明に用いました。水溶液中におけるポリアミノ酸と常磁性金属イオンとの相互作用,及び常磁性シフト,常磁性緩和の現象を通して原子レベルで高分子−金属イオンの相互作用を明らかにしました。またその発展として,蛋白質と金属イオンの相互作用の研究を行い,カルシウムイオン結合蛋白質であるカルモジュリンにカルシウムイオンが4個結合すること,そのうち2個が強くCドメインに,残りの2個が弱くNドメインに結合することを,初めてNMRにより明らかにしました。第三は,新しいNMR測定法の開発と応用の研究です。新規のパルスシークエンスを開発し,二次元NMR測定法を発展させ,その普及に先導的役割を果たしました。また,固体NMRの新たな応用への道を開き,無定形高分子固体物性の構造的基盤構築に貢献するとともに,従来詳細な識別ができなかったビニル系高分子のNMRシグナルの帰属に関する一般的ルールを確立しました。さらに,固体NMRを用いた高分子ブレンドの研究を行い10から300オングストロームのスケールにおけるブレンドの相溶性を解明しました。

略 歴

生年月日   昭和11年1月2日
昭和39年4月   北海道大学理学部高分子学科助手
昭和42年6月   北海道大学理学部高分子学科講師
昭和42年7月 米国アルゴンヌ国立原子力研究所生物医学部門客員研究員
昭和44年9月
昭和44年11月   北海道大学理学部高分子学科助教授
昭和52年2月   北海道大学理学部高分子学科教授
平成5年4月 北海道大学理学部長・理学研究科長(2期)
平成9年3月
平成11年3月   北海道大学停年退職
平成11年4月   北海道大学名誉教授

(理学院・理学研究院・理学部)





谷口 満里子 氏

感 想

 この度,はからずも叙勲の栄誉を賜り身に余る光栄と感激いたしております。これもひとえに関係の皆様のご尽力の賜物と深く感謝し,お礼申し上げます。
 私は昭和46年北海道大学医学部附属看護学校入学以来,定年退職した平成24年3月までの42年間,北海道大学の中で過ごさせていただきました。先日も北13条の黄色にそまった銀杏並木を歩きながら細かった幹を思い出し,時を感じておりました。
 振り返ってみますと第一外科に採用された当時は看護師の人数も少なく患者さん60人に看護師が3人という夜勤でした。このような厳しい環境の中でも先輩・同僚達と中心静脈栄養を施行された患者さん(当時は終日ベッド上生活を強いられた)が歩けるように点滴架台の原型を考えたり,体のどこかにドレーンが挿入されると入浴できなかった患者さんへの安全な入浴方法を検討して医師の承諾を得たなどの患者さんの生活を援助したりという多くの体験が,その後の長い看護師人生の礎となりました。また採用当時先天性胆道閉鎖症の小児は殆どが生後1年未満で亡くなっていました。しかし現在は平成11年に生体肝移植を受けた赤ちゃんは元気な中学生になっています。医療の進歩を実感するとともに北大病院における生体肝移植に関われたことは幸せなことでした。精神神経科では患者さんの生活の質と危険回避のための持ち物管理で悩みましたが,よき上司の理解のもと規制緩和を実現することができました。また,多くの患者さんとの関わりの中から多くのことを学ばせていただくことができました。この学びは管理者となった未熟な私にとって大きな財産となりました。病棟師長となってからは医療制度の変遷の中,看護の質を担保しながらの在院日数短縮・病床稼働率アップなどの課題に医師・看護師一丸となり取り組みました。副看護部長となり病院機能評価受審(平成18年)など病院としての事業に携わる中で多くの病院関係者の皆様から自身の視点を広げていただき,職務を全うさせていただくことができました。急性期看護補助体制加算取得や看護部長年の要望であった無線機能式のナースコール更新をはじめとする看護師の業務軽減に関わることができ実現されていったことは嬉しい思い出です。
 私の39年の看護師としての年月は,よき先輩・同僚・後輩に恵まれ様々な方にご支援いただいたおかげと感謝してもし尽くせません。今後はこの栄誉に恥じることのないよう過ごしてまいりたいと思います。
 最後になりましたが,北海道大学・北海道大学病院・看護部の発展をご祈念申し上げ,お礼の言葉といたします。

功績等

 谷口満里子氏は,昭和27年6月22日に北海道美唄市に生まれ,同46年3月北海道美唄東高等学校を卒業し,同49年3月に北海道大学医学部附属看護学校卒業後,同年4月北海道大学医学部附属病院に採用されました。昭和60年副看護婦長,平成2年看護婦長,同18年副看護部長を歴任し,同25年3月に北海道大学病院を定年にて退職するまで看護管理・教育の充実にむけて貢献されました。
 同氏は,患者の視点に立った看護実践に取り組み,看護学生の実習指導やスタッフ及びリーダー育成,業務改善等にリーダーシップを発揮し,看護実践力の高いチーム作りに努められました。看護婦長に昇任してからは,精神神経科患者の社会復帰に向けての援助の推進や,看護職員が携わる薬品業務にかかる看護業務の改善,周手術期看護の充実に努め,生体肝移植患者への看護の確立に尽力されました。
 この間,自ら積極的に学会や雑誌への論文投稿を行うとともに多数の看護研究を指導し,看護スタッフとともに,多数の学会等で発表,雑誌へ論文を投稿されています。
 看護管理者としては,千葉大学看護学部附属看護実践研究指導センター,日本看護協会看護管理B研修を受講し,看護管理者としての質向上に努められました。
 看護部委員会においては,臨床における質の高い看護師育成を担う教育委員会,人事・労務管理の体制整備を担う総務委員会,看護業務の改善・向上を担う業務委員会をそれぞれ3年間担当されました。
 平成18年4月,看護管理者として卓越した能力が認められ副看護部長に昇任,業務を6年間,総務を1年間担当し,Supply Processing and Distributionの導入と医療材料の見直し,ベッドセンターの機能拡大,急性期看護補助体制加算取得,共通看護助手の業務内容構築と整備,看護業務・診療補助業務実態調査の実施,看護必要度研修・看護必要度指導者養成研修等に多大に尽力されました。平成18年の病院機能評価受審の際は病院全体を統率して取り組み,認定に貢献されました。
 平成22年に北海道大学保健科学研究院との共働で「看護職キャリアシステムプラン開発・評価組織体制」が構築され,エキスパート看護実践能力向上プログラム開発・評価部門を立ち上げ,院内認定がん看護エキスパートナース養成プログラムの開発に尽力されました。
 同氏は,社会的活動も精力的に行い,北海道看護協会においては,石狩北地区支部教育委員,看護師職能委員,抄録選考委員等を歴任,研修の講師等も積極的に担当し,継続教育に尽力されました。
 以上のように,39年の永きにわたり看護管理・教育の充実,患者サービスの質向上に尽くした功績は誠に顕著であると認められます。

略 歴

生年月日   昭和27年6月22日
昭和49年4月   北海道大学医学部附属病院
昭和60年4月   北海道大学医学部附属病院看護部副看護婦長
平成2年4月   北海道大学医学部附属病院看護部看護婦長
平成15年10月   北海道大学医学部・歯学部附属病院看護部看護師長
平成18年4月   北海道大学病院看護部副看護部長
平成25年3月   北海道大学定年退職

(北海道大学病院)

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