低温科学研究所は,9月11日(金)に宇宙航空研究開発機構(JAXA)平成27年度第一次観測ロケットを使用した微小重力実験を実施しました(研究代表者:木村勇気准教授)。
宇宙ダスト(星のかけら)と呼ばれる微粒子は,天体より放出されるガスから生成します。その中でも最初に生成する微粒子は,ナノメートルのサイズから惑星に至る固体物質の変遷において,非常に大きな影響を与えます。そのため,その最初の物質の同定と生成条件の理解は,宇宙の物質循環を知る上で根幹となります。
本実験では,観測ロケットS-520-30号機の先端部に当研究所技術部の協力で作製した「浮遊ダスト赤外スペクトルその場測定装置」を搭載し,ロケットの弾道飛行中の微小重力環境下で酸化アルミニウムやシリカの蒸気から微粒子が生成・成長する過程の直接測定を行いました。この過程は「星のかけらの生成・観測」とも表現できます。今後,今回の観測結果を活用し,無重力環境である宇宙空間での微粒子の生成条件を理解し,宇宙で最初に生成する物質を明らかにすることを目指します。
今回の実験により,宇宙での物質進化のストーリーの記述や,次世代赤外線天文衛星SPICAによる宇宙史の中での物質進化の解明に生かすことが可能です。同時に星間物質進化のスタート地点である,晩期型巨星で生成する宇宙ダストの核生成過程が解明されます。宇宙ダストの形成を伴う様々な天体現象の観測データと組み合わせて,恒星風の化学組成や密度,温度環境など,様々な物理・化学パラメータを厳密に決定できるようになり,当該分野に革新的な寄与を与えることが可能です。また,宇宙ダストの核生成理論に対する実験検証ができ,宇宙における物質進化の理解において,最初のマイルストーンとしての役割を担うことが期待されます。