訃報

名誉教授 稲垣 冬彦(いながき ふゆひこ) 氏(享年69歳)

稲垣 冬彦 氏  名誉教授 稲垣冬彦氏は,平成28年6月15日,享年69歳でご逝去されました。ここに生前のご交誼,ご業績を偲び,慎んで哀悼の意を表します。
 先生は,昭和45年3月東京大学理学部化学科を卒業し,修士課程では島内武彦教授の指導のもとに振動分光学の研究に従事されました。その後,東京大学理学部生物化学教室に博士課程学生として進学し,宮澤辰雄教授のもとでNMR法を用いた生体分子の構造研究を始められ,その後一貫してNMR法による生体分子の構造研究を進めてこられました。
 この間東京大学理学部助手,東レ株式会社主任研究員,財団法人東京都臨床医学総合研究所部長の要職を歴任後,平成11年4月に本学薬学研究科教授として就任し同22年3月に退職,同年名誉教授及び先端生命科学研究院特任教授として,この春まで本学の研究,教育に力を注いでこられました。
 先生は,本学はもとより,我が国のNMR,構造生物学のリーダーとして,二次元NMR法等NMR技術の開発に尽力され,天然物,糖脂質糖鎖,EGF等生物学的に重要な蛋白質の構造を決定してきました。この中には,ニューヨーク大学Joseph Schlessinger教授,マックス・プランク研究所Axel Ullrich博士との共同研究も含まれています。その後,システムとしての構造生物学を目指し,大阪大学審良静男教授との共同研究で自然免疫,東京工業大学大隅良典教授との共同研究でオートファジーの構造生物学的研究に取り組み,国際的にも高い評価を受けています。
 また,文部科学省の「タンパク3000プロジェクト」の拠点リーダー及び「ターゲットタンパク研究プログラム」の主任研究者,更には特任教授就任を前後して,文部科学省「未来創薬・医療イノベーション拠点形成事業」の代表研究者として構造生物学を先導すると共に,本学北キャンパスに我が国有数のNMR施設を創設し,運営にあたると同時に若手研究者の指導育成にも尽力されました。
 以上のように,先生の教育・研究者としての業績は計り知れないほど大きなものであります。これまでの偉業の達成を称えるとともに,ここに謹んで稲垣先生のご冥福をお祈り申し上げます。

(薬学研究院・薬学部)

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