ゲスト 1965年に創立し、現在では道内各地に100店舗以上を構え、北海道の食のインフラとして地域の課題解決に取り組んでいるコープさっぽろ。「つなぐ」を合い言葉とし、地域の暮らしを守るため、店舗事業、宅配事業、エネルギー事業など様々な事業を展開している。総長就任1年を迎える寳金清博総長が、本学OBである大見英明理事長に、同組合の理念や精神、本学への期待などを伺った。 試行錯誤の学生時代
寳金 ご出身はどちらですか。また、少年時代から北大に入学するまでの経緯を教えてください。 大見 生まれは愛知県安城市です。父はトヨタ勤務で、母は農協の職員でした。私は刈谷高校出身で、高校2年生の時に、卒業生である外山滋比古氏の記念講演を聴く機会がありました。外山氏は『思考の整理学』という本を書いた方です。初版は1983年ですが、ロングセラーとなり、2000年代にも東大生や京大生に読まれる本として話題になりました。 寳金 とても有名な著書ですね。300万部近く発行されているのでは。 大見 そうですね。当時は、トヨタ自動車がアメリカに進出する前でしたので、その記念講演でも、国内企業の話題になりました。外山氏は「三河の田舎にいてはいけない」と。「東海地方にいたらグローバリズムは育たないし、知識の幅が狭くなって駄目だから、名古屋大学に行ってはいけない」なんて言うんですよ。 寳金 名古屋大学は、東海三県の出身者が多く入学しますね。 大見 はい。ですが外山氏の話を聞いて、国立大学の中でも特に遠方にある北大に入学したのです。当時は彼の言葉に感化された上での決断でしたが、今から思えば単純な動機でした。 寳金 北大では、どのようなことを学ばれましたか。 大見 物理や数学が大好きでしたので、北大には理類の募集枠で入学しました。当初は建築家になりたかったのですが、学部に移行する際の成績がほんの少し足りませんでした。そこで、農学部の林産学科に進みましたが興味の方向性が合わず、自分でもなぜそうしたのかよくわからないのですが、教育学部に転部したのです。 寳金 転部できたのですか。大きな方向転換ですね。 大見 はい。当時の転部試験の倍率は8倍でしたが合格することができ、教育学部で学びました。そして当時の主任教授に「大学に残りたい」と伝えると、「君は大学に残るのではなく実業に進むべきだ」と。ですが、企業の採用試験は全て終わっていて。たまたま北大生協の組織活動に参加していたことがきっかけとなり、コープさっぽろに入協した、というだけなのです。 社会に寄り添う共同体として
寳金 その教授に先見の明があったのでしょうね。 大見 コープさっぽろは、現在、小売業で3千億円程度の規模です。店舗事業が2千億円、宅配事業が1千億円程度です。 寳金 宅配事業だけで1千億円もの規模があるのですか。 大見 はい。宅配事業は将来的には基幹事業になっていくと考えています。その他にエネルギー事業も展開しており、お惣菜などの食品をつくるコープフーズという会社や旅行会社などを含め、21の関連会社から成り立っています。これらの関連会社はこの5年ほどで全て黒字に転換しました。食もエネルギーも隣接している領域ですので、我々が北海道の食のプラットフォームになることを重点テーマにして、ずっと取り組んできています。
寳金 特に宅配事業は、目覚ましい成長を遂げていますね。 大見 道内での宅配利用は、42万世帯となりました。7世帯のうち1世帯は、コープさっぽろの宅配を利用していることになります。あと3年間で、利用者を50万世帯以上に増やすことが目標です。特に高齢化社会で、いわゆる買い物難民と呼ばれる方達が増えてきていますので、そういった方達の手助けができることが我々の強みです。 寳金 配送は外部業者に委託しているのではないのですか。また、こういった個別配送はいつから行われているのですか。 大見 配送は自前で行っています。このトドックステーション(宅配トドック西岡センター)には、30台以上のトラックがあり、1日1台当たり80軒程に配送しています。
寳金 個別配送の仕組みを浸透させるために、苦労されたことはありますか。 大見 ブランディングには力を入れました。とにかく、日本で一番わかりやすいブランディングをしなければ、と。要するに「一軒一軒自宅に届けるということを、しっかりとわかりやすく、明快なメッセージとして伝える」ことを目指し、大手の広告企業にブランディングを依頼しました。そしてできたのが「トドック」です。ちょうどその年の夏に、旭川市の旭山動物園のホッキョクグマ館が人気となり、入園者が日本一になりましたので、「トドック」はシロクマ(ホッキョクグマ)にしよう、となりました。 寳金 ビジネスとしてのアイデアも素晴らしいですが、広報戦略がすごいですね。トドックという言葉とイメージがしっかりと合致しており、熱心に進めてこられたことがよくわかります。
大見 そのとおりです。子育て世帯を対象とした、特別な取り組みも行っています。私は、貧困問題を解決するには幼少時からの教育が絶対に必要だと考えています。親が子に教育する際に最初に使うものは絵本ではないかと思い、1〜2歳のお子さんを持つ組合員の方には、年間4冊の絵本を無償で提供しています。この取り組みは10年程続いています。
寳金 社会に密着した共同体として、グローバルな視点から様々な取り組みをされているのですね。 大見 こうした私たちの取り組みは広く認知されており、子どもが生まれる世帯の半分が組合員になっているのです。ですから、少子化で人口が減少しても、世代継承ができるのではないかなと思っています。
次代を見据えて
寳金 SDGsに関する取り組みも、熱心に進められていますね。 大見 地域の構成員である消費者が、自分たちの社会が良くなるためにどうするかを考え実行していかないと、協同組合事業は成り立ちません。ですので、生協組合が行うことは本質的にSDGsなのです。常に、次の世代のことを考えて取り組んでいます。 寳金 残念ながら一部の企業では、ある種のファッションとしてSDGsに取り組んでいる側面があります。しかし、コープさっぽろの発想自体がSDGsそのものなのですね。 大見 そのとおりです。例えば、このステーションにおいてある絵本やおもちゃは、ほとんどが組合員の皆さまから提供されたものです。事業費を使って新しく購入したものはひとつもありません。また、品々の交換も行っています。若干の手数料をいただくのですが、貯まった手数料を使って、ステーションで使用する木製のおもちゃを購入するなどしています。また、資源回収にも力を入れています。配達の際に回収を行えば、余分なエネルギーを消費しません。事業をちょっとした生活構造の一部として取り入れ、組合員が協力することによって成果を生み、それをみんなが享受する。「一人は万人のために、万人は一人のために」というスローガンそのものですね。 寳金 コロナ禍前と後で、何か大きく変わったように感じられることはありますか。 大見 全てとは言いませんが、生活行動の2〜3割はリセットされ、ポストコロナでは行動パターンが変わると考えています。私たちが行動を抑えることで、大気中のCO2の減少にもつながります。コロナ禍を経験することは、SDGsとも関連があるわけです。
寳金 最後に、北大生にメッセージをお願いします。 大見 学生には、グローバルな視野を持ってほしいです。最先端のところに出かけて行き、世界でいろいろな刺激を受けてほしいですね。 寳金 とても重要なメッセージです。私も、コロナ禍を経験した上で、もう一度北大の国際性について真剣に考えたいと思っています。今日はどうもありがとうございました。
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