【特集3「つなぐ」―地域交流の輪―】

人材育成本部
ダイバーシティ研究環境推進室


ダイバーシティ研究環境推進室スタッフのミーティングの様子。多様な経験を持つスタッフが情報共有を密にし、室の運営にあたっている。


多様な人材が活躍できる研究環境の実現に向けて

2020年4月、人材育成本部の女性研究者支援室はダイバーシティ研究環境推進室に名称を変更し、再スタートを切った。
SDGsでは「誰一人取り残さない」をスローガンにするなど多様性が重要視される今、ダイバーシティ研究環境推進室では、多様な人材がよりよい環境で研究に打ち込めるよう、研究者に寄り添った様々な支援を行っている。



 大学には、未来社会の担い手の育成・輩出、SDGsへの貢献、イノベーションの創出といった様々な使命があり、これらの使命を果たすには「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)」が不可欠である。多様な人材が集い、その能力や個性を最大限に活かすことが重要だ。

 本学では、2006年7月に女性研究者支援室を設置し、女性研究者増員に向けた取り組みを進めてきた。2009年には210名であった女性教員の人数が2019年には337名に増加するなど、一定の成果をあげてきている。

 2020年4月には、人材育成本部ダイバーシティ研究環境推進室に名称を変更。室長を務める矢野理香教授は、「本学の更なる発展のためには、若手研究者や外国人研究者の存在が非常に重要です。女性研究者への支援を継続しながら、多様な人材を支援する環境整備を進めていきたいです」と思いを語る。矢野室長を筆頭に、特任教授、特任助教及び学術研究員各1名、事務補佐・補助員4名の8名体制で運営している。


北海道の6機関が連携して進めている
「ダイバーシティ研究環境実現イニシ
アティブ(牽引型)」事業の愛称『KN
IT』。ダイバーシティの概念にのっと
り「多様なヒト、コトが様々な色と形
でしっかり支えあっていく」さまを北
国らしい編み物(Knit)と重ねている。


2020年9月開催「KNIT a Network!
ロールモデル座談会」の様子。


2020年3月3日〜4日開催のKNIT研究交流
発表会「超異分野meetup」。会場は151
件の研究ノボリで埋め尽くされた。コロ
ナ禍のため、直接の会話が難しい中でも
活発な交流につながるよう工夫して開催。
2020年11月30日〜12月4日には「異分野
meetup week 2020」としてオンライ
ンで開催している。

研究者目線で様々な事業を実施

 ダイバーシティ研究環境推進室では、3つの柱のもと様々な活動を進めている。1つ目は人材育成。上位職を目指す女性研究者のためのジョブシャドーイング研修、国際共同研究や異分野連携を推進するための支援事業を展開している。2つ目は研究環境基盤の整備。出産・育児、介護などのライフイベントと研究活動を両立させるための研究補助人材支援を行っている。そして、3つ目は次世代の女性研究者育成だ。博士課程への進学促進に向けた取り組み、理系女子学生のコミュニティづくり、小中高校生を対象とした体験型イベントなどを実施している。

 また、2019年度科学技術人材育成費補助事業(文部科学省)「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」に採択され、北海道地域におけるダイバーシティ推進の中核となり、室蘭工業大学、帯広畜産大学、北見工業大学、株式会社アミノアップ、日東電工株式会社と連携し、ワークライフバランスに配慮した研究環境の整備、女性研究者・技術者のリーダー育成、次世代の女性研究者のキャリアパス構築支援などを進めている。

 ダイバーシティ研究環境推進室の取り組みの中で、学内からのニーズが最も高いのが、ライフイベントと研究活動を両立させるための研究補助人材支援だ。育児や妊娠・出産に限らず介護など、ライフイベントで研究活動を中断、あるいはペースダウンせざるを得ない時に業務補助をする人材支援を行っている。半年単位で毎回二十数件の応募があり、最近では男性からの応募も増えているという。「この支援を受けることで、論文執筆や外部資金の申請書作成などが可能になり、成果を落とさずに済んだと喜ばれています」と、長堀紀子特任教授は話す。この他にも、学内からの要望を踏まえ、大学入学共通テストで休日出勤を行う教職員を対象に養育する未就学児の一時保育を実施するなど、教職員が業務に専念できる環境作りに日々取り組んでいる。

鍵となるネットワークの構築

 ダイバーシティ研究環境の推進にあたり、非常に重要なのがネットワーキングだ。ダイバーシティ研究環境推進室では、ランチタイムに研究者同士が気軽に交流できる場として、2020年7月から月1〜2回、「KNIT a Network! ロールモデル座談会」をオンラインで開催している。研究や大学運営に携わる者の多様な人生を共有することが狙いだ。「子育てと研究活動を両立させるためのノウハウや苦労話など、何気ない話の中で新たな気付きや自身の研究活動のヒントが得られることがあります」と長堀特任教授。矢野室長も「私もこのようなネットワークから共同研究を始めた一人です。異分野の研究者が集い、偶然にもそこから新しい発想が生まれることがありますので、今後もこういったネットワーク作りに取り組んでいきます」と同調する。異分野交流を促進するための発表会“meetup”の開催など、様々な取り組みが実を結び、女性研究者をリーダーとする共同研究は2年間で27件生まれているという。


 誰もが無意識に持っている偏見や思い込みはあるが、これに1つでも気付くことが自分の研究の可能性を広げるとともに、組織の発展につながると話す矢野室長。「将来的には無意識の偏見に対する気付きを与えるような研修の実施を視野に、大学の知の創出に貢献するための支援を進めていきます」と今後の展望を語る。

 「Knit a network 〜 つながりあう世界へ」のもと、ダイバーシティ研究環境の実現に向け、着実にその歩みを進めている。



前のページへ 目次へ 次のページへ