認知症研究拠点
認知症と共生する持続可能な社会をつくる 持続可能な社会の実現に向けた世界トップレベルの認知症関連研究を推進する拠点として2022年4月に設置された認知症研究拠点。本学の叡智を結集し、高齢化社会の日本が抱える喫緊の課題解決に向け、様々な研究プロジェクトを進めている。 厚生労働省によると、65歳以上の認知症患者の数は2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)になると予測されている。北海道は少子高齢化が特に顕著な地域であり、認知症患者の割合も高くなっていくことが予想される。認知症対策には医療の観点のみならず、社会問題として幅広く取り組む必要がある。そこで本学は、認知症関連の研究や対策の推進と社会実装を目指し、2022年4月に認知症研究拠点を設置した。2022年7月に行われたスタートアップ講演会では、日本学術会議「認知障害に関する包括的検討委員会」の委員長を務めていた寳金清博総長の基調講演も行われ、学内外の研究者、企業関係者など多くの方々が集まり、この問題に対する関心の高さがうかがわれた。 総合力で挑む
認知症に関する研究課題は多様である。医学分野はもちろん、認知症患者をどのように支え、その人らしく生きていけるようにするかという社会的課題、AIなどの活用方法を考える情報工学など、専門領域の枠にとらわれずに取り組むべき課題がたくさんある。総合大学としての強みを活かし、認知症研究拠点では、「認知症の予防・診断・治療技術開発」「共生コミュニティの創造」「デジタル化普及とデジタルデバイドの解消」の3つを軸とし、認知症と共生できる社会の実現を目指していく。 本拠点には、医学研究院、保健科学研究院を中心に大学病院、遺伝子病制御研究所、先端生命科学研究院、情報科学研究院など、複数の部局等の研究者が参画している。拠点代表を務める矢部一郎教授(医学研究院神経内科学教室)は、「これまでは横のつながりが薄かったので、連携を通してより大きな研究成果を出していきたい」と抱負を語る。
認知症とは、認知機能の低下による症状を表す用語であり、特定の病気を指すものではない。実は認知症と診断されても、その原因となっている病気を特定することは極めて難しく、それが治療薬開発の関門になっている。この問題を解決する糸口にすべく、矢部教授が力を入れているのが北海道での「ブレインバンク」の確立だ。ブレインバンクとは、認知症患者の脳や髄液、血液などの生体試料を収集・蓄積し、診断や治療法の開発に役立てていくものである。東京周辺地域でのブレインバンクはあるが、北海道にはまだない。ブレインバンクを充実させることで遺伝子やタンパク質などの解析を行い、認知症の原因となっている病気の診断に役立つ成分を明らかにすることで、治療薬開発につなげることができるのだ。現在、先端生命科学研究院や遺伝子病制御研究所ではこうした生体試料を使いながら、認知症の早期発見や原因となる病気の診断、重症度の評価に利用できるバイオマーカーの開発を進めている。 認知症との共生
コロナ禍において様々な分野で遠隔システムの重要性は高まったが、コロナ禍に関わらず、認知症対策においては遠隔システムが鍵となる可能性がある。認知症の治療には、他の病気と同じく早期発見が重要だが、北海道では専門家の診察を簡単に受けられない地域が多い。拠点コーディネーターを務める大槻美佳准教授(保健科学研究院高次脳機能創発分野)は、認知症の兆候の早期発見につなげるべく、高齢者の日常をプライバシーに配慮しながら遠隔でモニターし、動きや動線の変化を観察、そのデータを収集・分析している。 本拠点ではこの他、新しいMRI技術を用いた画像診断法の開発、認知症の早期症状に関係するといわれている脳の炎症を抑える研究、認知症の原因となる遺伝子研究、予防に役立ちそうな食品の研究など、多くのプロジェクトを同時進行させている。こうした研究を通して、社会がどのように認知症と向き合えばよいかを多方面から考えていく。 「認知症患者さんは、常にケアが必要な方からケアを必要としない方まで幅広いですが、それぞれの段階でケアが行き届き、必要な時に助け合えるようなシームレスな仕組みの構築を目指しています」と大槻准教授。また、矢部教授は「多くの方に認知症に興味を持ってもらい、研究の仲間、あるいは認知症を支える仲間になっていただけたら」と思いを語る。誰もが無関係ではいられない認知症に共に立ち向かうことで、認知症と共生できる希望ある社会の実現を目指す。
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