4.理系部局

○園芸学概論  農学研究科・教授・大澤 勝次

1. 授業の目的・内容

本講義は農学部の2年次後期に開講している。農学部の学生の多くは2年次前期までに農学概論,作物生理学,植物病理学概論などを受講している。また,園芸学概論の受講後は3年次前期に,果樹園芸学,蔬菜園芸学,花卉園芸学など各論が予定されている。したがって,本講義は各論への橋渡しの役目を持つ。日々の生活の中で,あまりに身近すぎて,かえって顧みられることのない園芸作物について,その存在の多彩な実力を理解させ,自らの食生活の質等に関心を向けさせることが目的である。

授業の内容は,(1)園芸としての草花や野菜,果物だけでなく,山野草,きのこ,樹木,更には園芸療法(ヒーリング)にも目を向けさせる。(2)野菜の品種改良とバイオテクノロジーの技術開発をライフワークとしてきた私の経験や蓄積を伝える。(3)施設園芸やタネ無し果実,有機園芸など,園芸学に特有の課題に時間を割き,可能な限り実物を示し,具体的に説明するように心がけた。

2. 授業実施上の取組み・工夫等

北大農学部の学生の多くは,地球生態系の保護やバイオテクノロジー開発への夢を抱え,漠然とした期待を胸に進学してきているように見える。農家の出身者なら一度は経験する作物のタネ蒔きから発芽,成長,開花,収穫に至る作物の一生を知らない学生が多いのである。33年間,農水省の試験場で品種改良の技術開発に関わってきた私は,本講義を通して彼らに,日本の農業や北海道農業への関心を喚起したいと考えた。農業こそ農学部の拠って立つ基盤であると思うからである。そこで,(1)多種多様である園芸作物の特徴が伝わるよう,起源地や来歴,分類に力を入れ,印象的なカラーページを用意した。(2)バイオテクノロジーによって誕生した園芸作物を多数,写真や実物で示し,技術開発や研究の成果が目に見えるようにした。(3)遺伝子組換え作物(GMO),有機無農薬栽培,施設園芸の進展,園芸作物の有する機能性と食生活など,関心の高いテーマには時間を割き,試験場における私自身の経験や研究者仲間の実験数値を示した。

授業の都度,その日のテーマに沿った質問を投げかけ,白紙(Q&A紙)に回答を書かせた。同時に彼らの質問や疑問を受け付け,翌週に回答した。これを「キャッチボール授業」と呼び,私の授業の特徴とした。「キャッチボール授業」は常に気の抜けない授業形態ではあるが,学生の声が直接把握でき,何より彼らの成長していく様子が伝わるのが快い。一方通行にならない授業を目指す先生にはお勧めである。

講義が始まると一週間があっという間に過ぎていった。彼らの質問への回答に時間をかけすぎて,その日の講義のテーマへの時間が不足することもあった。この文章を書きながらふと浮かんだ思いであるが,「大学の授業は格闘技だ」といえるのではないか。全力で事にあたれば,相手(この場合は学生たち)も必ず全力で向かってくる。そこに夢と緊張と喜びと,そして,心地よい疲労があるのだと思う。


top先頭へ戻る