オピニオン Opinion
右にスワイプしてご覧ください
スクロールしてご覧ください

オンライン:見た目6割

 この緊急事態宣言下で、ついに本学でも対面での会議はほぼなくなった。例外的な少人数のものや機微情報を含み緊急性の高いもの以外は、全てオンラインとなった。朝から晩までオンラインである。最近は、声が届きそうな隣室の理事とさえ、「オンライン」である。

 先日のあるオンラインセミナーでの出来事である。他人のパソコンを使ってミーティングを開始した。久しぶりに同級生のA先生とオンラインで繋がった瞬間、「お前、総長になってから、顔がデカくなったぞォ!!」とため口を叩かれた。「相変わらずの辛口だな」と高を括って、パソコンの画面を見て驚愕した。
 画面からはみ出そうなくらいの「大顔」である。A先生は、比喩ではなく実際の画面のことを言っていたのである。この年齢ともなれば、誰しも、日々、自分の顔に自信など薄れてゆくが、今回は奈落の底に突き落とされた。魚眼レンズを通して見たガマガエルだ。学生の頃、「北18条のデビッド・マッカラム」*1 と煽てられていい気になっていた面影は、見る影もない。
 この他人様のPCのカメラの位置のせいか、本当に顔を下から呷る画像になっている。総長になって、思いあがって居丈高な態度で「顔」も「態度」も大きくなっているつもりもないし、決して、気持ちが緩んでいるわけではない。しかし現実には、顔の筋肉が無残にも下に崩落し始めており、顔の上下比率が劣化し、下半分優位となっている。
 ちなみに、以前、「犬学」(「大学」ではありません、Dogの学問です)を少々かじっていた頃、「犬顔の可愛さ」は、目のラインを境界とする上下の比率が重要であることを学んだ*2。今回は、下付きカメラで、顔の上下比率が、“可愛くない“比率側に強調された結果である。
 悔しくなり、こちらもA先生を見ると、下からのアップ。僕に負けないくらいの下膨れの顔で、一時期、白い巨塔の権力をほしいままにした傲岸な顔がさらにスケールアップして、悪代官顔になっている。
 「先生、あんたの顔もひどいぞ! 滅茶苦茶、浮腫んでいるんじゃないか! どっか悪いんじゃないか?」と、罵詈雑言の応酬となる。

オンライン:見た目6割

 そこに、少し遅れてB先生がオンラインに入室する。これがまた強烈である。A先生と僕が、まるで示し合わせたように「B先生、ダークサイドから現れた年老いたダースベイダーにしか見えないゾォ」と感想。
 B先生の部屋は、やや逆光になっていて、しかも黄昏の時間でもあり、本当に「悪の化身」のような映像で、小さい子供が見たら泣き出すのではないかと思われるヒール顔である。

 人間、見た目が6割という説があり*3 、非言語的コミュ力が重要なことは百も承知である。さらに話し方6割となれば、コンテンツなどは、計算上は全体のメッセージの16%、重箱の隅になってしまう。
 最近の日本のリーダー達を見ても、コンテンツのことは別として、見た目の残念さ、コミュ力の不足が目立つ。随分と損をしている。ファッションコーディネーターやコミュニケーションコーチを付けているのだろうかと、余計な心配をしてしまう。小さな話ではあるが、些末なことの悪影響で重要なメッセージが伝達されないとすれば、ことは重大である。
 かく言う僕も、小職を拝命する以前は、出がけにネクタイを選んだりすることなぞついぞなかった。しかし、最近は、「北海道大学の顔」だと意識して、毎朝、たいした種類もないネクタイをとっかえひっかえして、バービーちゃんのボーイフレンドのケン君さながらの着せ替えに時間をかけ、危うく遅刻する有様である。

 A先生、B先生との衝撃のオンラインの後、オンラインの見映えを俄か勉強した。「オンライン映え」も考えなければならない。
 今更、僕が言うまでもなく、オンラインのツールは日々進化し、様々な機能が満載である。ビデオ機能を展開すると、「見た目」改善機能、あるいはエフェクト機能があり、今日の登場人物のA先生、B先生はこの知識がなかったに過ぎない。最近は、mmhmmなど、見映えだけでなくプレゼンの場としての強力なツールも登場し、いよいよオンラインでの総合的な演出力、プレゼンテーション技術の競い合いになってきた。
 ただし、「美顔機能」など、プリクラの機能も真っ青の美容系エフェクトツールもあるらしいので、使い方には十分に留意しなければならない。「紅いリップ」機能などの使い場所を間違えてはいけない。

 今日もこれからオンラインで、日本中の様々な学術の代表が10名ほど集まるWeb会議が始まる。「寳金先生」ではあるが、北海道大学の代表でもあり、画面の向こう側では、僕の後ろには「北海道大学」が見えているに違いない。覚えたてのオンラインの見映えの技の見せどころである。早めに入室すると、幸いまだ誰もいない。
 ここぞとばかりに、自分のビデオをオンにして、様々なエフェクトを試してみる。ひげを付けてみる、背景もワイキキビーチにしようか、ゴールデンゲートブリッジが良いか、ペトラ古墳が良いかとあれこれ替えてみる。
 最近は、パジャマをスーツに替える機能もあるらしい(逆もあるはずだ)。ついつい、使ってみたくなり、気が付くと、会議が始まっており、危うく、ワイキキビーチを背景に髭を付け、紅い鮮やかなリップにパジャマを着た総長が入室するところであった。

 事程左様に、見た目6割、話し方6割と、外見・コミュ力が強調されているが、逆に言い換えれば、世間は、見た目やコミュ力で、しばしば印象操作されてしまい、内容のない薄っぺらなツイートが持て囃される可能性もある。
 改めて、大学たるもの、コンテンツ勝負は外せない。次回もA先生に罵詈雑言を言われようとも、オンラインのエフェクト研究に費やす時間があるなら、深みのあるプレゼンに磨きをかけるべきである。次回もA先生に罵詈雑言を言われようとも、デカい顔を入室させて、中身勝負すべきと肝に銘じている。

  • *1
    デビッド・マッカラム:60歳以上の方ならご存知かもしれない。ナポレオン・ソロというテレビ番組で人気のあった英国の男優
  • *2
    ベビースキーマ  :動物行動学者のローレンツなどの研究
  • *3