オピニオン Opinion
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ミスターDX オンライン飲み会に参加する

 このコロナ禍、最後に「本物」の宴会に参加したのはいつのことかと思い出そうにも、どうにも思い出せない。少人数の「飲み会」は、このコロナ禍でも、緊急事態宣言の隙間を搔い潜ってかろうじてできた。確か、昨年の夏、小職就任前、コロナ禍の最中(一応、平時であった)、高校の同級生が集まって、本来、数百人収容可能なホテルの最大の宴会場で、10名足らずで、空間をこれでもかと言うくらいに贅沢に使って、隣の同級生の声も届かない有様での開催であった。
 当然のことながら、アクリル板に遮られた飲み会は、全く盛り上がらず、終了予定時刻を待たずして、静かにお開きとなった。

 コロナ前の最後の宴会と言えば、僕が病院長を退職する直前であったような気がする。連日連夜、○○関係の宴会、△△関係の宴会と、体力が続く限りに行っていた。異なる関係者の宴会と言いながら、メンバーがいつもあまり変わりないのは驚くべきことである。筋金入りの宴会好きにつける薬はなく、「類は友を呼ぶ」とはこのことである。二次会あたりになると、携帯電話でいつものメンバーを自宅から呼び出して、カンパーイを毎晩繰り返していた。
 きっと、家族の顰蹙を買っていたに違いない。思えば、よくも似たような話をネタに、毎晩顔を突き合わせていたものである。

 少し小賢しいことを言うと、「宴会」と「飲み会」は似て非なるものである。「宴会」が様式美をもっているのに対して、「飲み会」は自由形式である。言い換えれば、「宴会」の本質は「式次第」である。
 「式次第」、まさか、読者の皆様、お忘れではあるまいか?
 僭越ながら、リマインドさせてもらいたい。

 最初に、会場入り口で「会費」を払って、主賓など以外は、くじで座席について、行儀よく開宴を待つ。
 ①幹事の挨拶から始まって、②主賓の挨拶、③上司のお言葉・・・と、一連のお作法が続く。その後は、④セカンドの上司の音頭で「カンパーイ!!」となる。これこそが、伝統と格式ある日本の「宴会」のプロローグである。
 その後、「しばしの御歓談を」という決まり文句が幹事から続く。やがて、部下が上司にビールを注いで回るあたりから、座は一挙に荒れ模様、乱戦気配となる。やがて狭い宴会場のあちこちで小さな固まりができ、「今日は無礼講ですから!」などと、唾液飛沫が顔に飛び散らんばかりの近距離での大声の会話が始まる。空間が狭ければ狭いほど密度が上がり、テンションも上がり、換気など全く考えない密閉空間でこそ、体温で室温も上がり、宴も盛り上がるというものだ。
 もう、これぞ昨年3月あたりから悪名をほしいままにしている「三密」の極致である。
 今ならば、全員感染の大クラスター間違いなしであろう。

 そして、宴たけなわとなり、いよいよ、「宴会芸」の披露となる。普段、大人しい先生方が、カーテンの向こうで衣装替えして、幕が上がれば、ヘンシーンである。
 K先生の十年余の磨きのかかった山本リンダから始まり、普段は物静かなY先生にスイッチが入って黒タイツの江頭2:50が憑依するわ・・・で、もうカオスとなる。
 最後に、再び幹事から、「宴もたけなわではございますが」という伝統的なメッセージがあり、上司のご挨拶となり、お開きとなる。
 これは、今思えば宴会の序の口である。その後は、さらに二次会、三次会となり、分散しつつ拡大しながら、夜も更けるまで続く。若い頃であれば、まさに、東の空がしらじらとなり、始発の電車が動き出す頃まで、宴は続いていた。

 こうして回想するだけでも、二日酔いの苦い後悔と共に胸がキュンとなる懐かしさがこみ上げてくる。コロナで失われた日本の伝統文化の喪失感に打ちのめされる。

 宴会の華である宴会芸については、昭和・平成をどっぷりと生きてきた宴会の達人を自負する者としては、語れば語り尽くせないものがある。プロのと言ってほしい。公序良俗の立場から、詳細はこの場では語ることができないが、「ウォシュレット」などは目を覆うべきものではあった。そして、部屋の明りを完全に落として、真っ暗闇の中での「蛍の芸」。円座を作って、「ホッホッ、蛍、来い♪♪」と合唱する芸は、後継者も絶え、絶滅した。今ならすかさずYouTubeにアップされて、大炎上したに違いない。もう30年も遡る話で、時効としていただきたい。

 このコロナ禍で、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が加速し、ビジネスの在り方は大きく様変わりしつつある。そして、この変化は、元に戻ることのない一方向のものである。本学でも、DX化の気合十分な若い職員が、総長に対しても遠慮会釈なく、厳しく出稽古を付けてくれる。
 DXは、それを先導するグループが、今後の世界のビジネスシーンは言うまでもなく、アカデミアでも揺るぎないグローバルプラットフォームをあっと言う間に築くはずである。それは、驚くべきスピードで世界を席巻し、実際、数年以内に世界が変わると考えるべきである。それに乗り遅れたグループは、データ空間上でガラパゴス化して、世界から事実上、いや、バーチャル空間では、文字通り”消滅“する。
 世界は、DXチームと乗り遅れチームの二極化に向かうのではなく、DXチームの一人勝ちとなるはずである。
 大学総長としては、いったん職場に足を踏み入れれば、ミスターDXとなって、周囲に範を示すことは当然である。

 ミスターDXとしては、先日、初めて本格的なオンライン飲み会なるものに参加した。最近は、オンライン飲み会のツールも充実している。カードゲームもあるし、「顔芸」のようなオンラインならではのゲームもある。もちろん、カラオケツールも百花繚乱である。最近、家でアルコールを嗜まない筆者は、オンライン飲み会ですっかり酩酊し、ワイングラスを倒してしまい、キーボードを一つダメにしてしまう寸前となり、賢人のアドバイスに従い、Zoomから退出となった。
 オンライン飲み会で楽しみにしていた、YouTubeで山内惠介の「スポットライト」のカラオケバージョンを歌う機会もまた逸してしまった。盛り上がらないDXオンライン飲み会が、日本古来の伝統美である「宴会」を駆逐するとはどうにも信じられない。

 仕事でのDXは文句なしである。
 しかし、人と人が触れ合う様式美の粋である「宴会」はどうなってしまうのか。
 頼むから、日本の伝統文化である「宴会」と伝統芸能である「宴会芸」を復活させてくれ!!