オピニオン Opinion
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ライバルは稲村亜美さん
--新球場・エスコンフィールド*1に立つ--

 飛行機の機内プログラムは、最近、充実の一途である。国内線でも、大好きなディズニー映画を満喫できるし、田村正和さん主演の古畑任三郎シリーズなど、ドラマも見ることができる。最近は、スポーツ関係のプログラムも内容が豊富になった。残念ながら、競馬の番組はなく、今週開催される重賞の参考レースや有力出走馬の調教は見ることはできない。しかし、家族の冷たい視線があり自宅では見ることができない新日本プロレスの「ワールド・プロレスリング」の名勝負を見ることができるのは、実にありがたい。プロレスを見ていると、後方や隣の乗客の視線が気になるが、前IWGPヘビー級チャンピオンのオカダ・カズチカが登場すると、思わず没入して、力が入ってしまう。必殺の得意技「レインメーカー」が炸裂する瞬間は、マスク越しに思わず「出たぁ!!」と声が出てしまう。
 JALの国内線プログラムでは、ゴルフ番組が特に充実している。タレントの稲村亜美さんがホストの番組をついつい見てしまう。稲村さん、ゴルフは一向に上手くならない。そこが、また、好感度をアップさせてしまう。「ゴルフでは僕の方が上だな!」などとつまらない優越感に浸ってしまう。
 稲村亜美さん、御本人は知る由もないが、彼女は、僕のライバルである。ゴルフでは、僕が明らかに上級者であるが、野球に関しては、稲村亜美さんといえば、神スイングなど、プロ野球関係者の評価も極めて高い。甲子園球場での始球式では、球速103キロのストレートをストライクゾーンに投げ込んで、喝采を受けている。ちょっとしたチェンジアップに匹敵するレベルの投球で、プロの選手でも、タイミングがズレると、凡打するに違いない。
 それで、どうして、稲村亜美さんが僕のライバルなのかといえば、実は、僕もプロ野球で始球式をさせてもらったことがあるからである。その顛末は、別の雑文に書いているが、ネットからも既に消え果てているので、以下、要約のみ。

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 大谷翔平の北海道日本ハムファイターズでの雄姿が見納めとなった2017年のペナントレース開幕戦は、札幌ドームでの埼玉西武ライオンズとの二連戦となった。いろいろ理由(わけ)ありで、開幕第2戦の始球式の大役を仰せつかった。
 始球式の件は、前年の11月くらいには決定しており、冬期間、汗と涙の猛練習を重ねた。アマゾンからプロ野球仕様のボールをたくさん購入して、基本となるネット投球から始めた。北大に在籍している野球部出身者からコーチングを受けて、日本ハムの屋内練習場での猛練習を重ねた。一時期は、時速100キロを超える速球を投げるレベルにまで上達していた。
 ところが、春になり、いよいよというところで、過剰な練習により肩関節を痛めてしまった。肩関節周囲炎であり、不本意なコンディションのまま本番を迎えることとなった。子どもの頃から、ここ本番という時に失敗をするのは、親譲りの運命と諦めている。
 相手の埼玉西武ライオンズの一番バッターは、現在、大リーグで苦戦しているが、当時はイチローに匹敵するヒットメーカーだった秋山翔吾外野手であった。オーセンティックな始球式は、① 投球は山なりでも構わないが、ノーバウンドの球がストライクゾーンを通過すること。そして、② 当代一流の打者のバットが、美しく空を切ること。これが、始球式の所作であり、様式美である。
 残念ながら、年を跨ぐ猛練習の挙げ句に痛めた僕の肩から放り出されたボールは、情けない大きな放物線を描き無残にもホームベースから遥か手前でワンバウンドしたが、それでも、彼は空振りをしてくれた。ひょっとすると、メジャーリーグに移籍してからの秋山選手の不調は、あの僕の始球式での空振りが原因ではないかと思うと胸が痛む--------。

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 さて、因果は巡って、僕にとって辛い思い出の場所となった北海道日本ハムファイターズの本拠地も、札幌ドームから北広島市の新球場・エスコンフィールドに移ることとなった。北広島への移転が決定してから、僕は何のお役にも立っていないが、一時期、助言をさせてもらっていた。
 5年前に、移転プロジェクトを進めるファイターズ スポーツ&エンターテイメントの若くてエネルギーに満ちあふれた前沢さん達に初めて出会ったのは、すすきのの居酒屋だった。プロ野球とは縁遠い仕事で、海外で活躍していた前沢さん達から構想を聞いた時は、今まで聞いたこともないような構想の壮大さと無謀さに驚いた。いわば、青臭い学生のスタートアップコンテストのピッチ(短いプレゼン)を聞いているようなザワザワとした穏やかでない気持ちになった。金額にして1000億は超えそうな巨大事業である。若々しい高邁な大志の一方で、裏腹の危うさを感じて、貧乏人、小心者の僕は内心ビビってしまっていた。これは、関わらない方が良いかもしれないなどと一瞬ドン引きしたほどである。
 あれから5年、彼らの20年はかかると思われた壮大な構想の第一歩の完成を間近にしたエスコンフィールドを見学させてもらった*2。僕のような凡人の想像を遙かに超える自然光に溢れた巨大空間と、ファンを魅了するに違いない斬新なイノベーションの仕掛けと、ホスピタリティに満ちあふれた夢の空間がそこにあった。何より、新球場は単なる一つのピースに過ぎない壮大なボールパークという街づくり、地域創生の壮大なビジョンが圧巻である。正直、前沢さん達の完遂力とどんな困難にもめげない突破力に、脱帽した!!
 大学もこれくらいの仕事をしないといけない。

 来年、2023年の3月末、日本プロ野球の球場史、いや、世界のボールパーク史上に残る新球場「エスコンフィールド」で北海道日本ハムファイターズの開幕戦が開催される。
 この巨大な地域創生の事業の先行きは、これからも、決して、順風満帆ではない。意気をくじくようなネガティブな予測や、ある種の嫉妬に満ちた批判があることは百も承知の助である。そのいくつかは、根拠に基づいた批判でもある。しかし、スタートアップはそういうものであり、成功に向かって一つ一つの厳しい現実と闘いながら、大志を胸に、粘り強く前に進む突破力があれば、後生、これらの批判をしていた人々が賞賛の声を上げると確信している。北大もこの壮大な大志に微力ながら関わることができることは仕合わせである。

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 新球場の開幕戦の始球式は誰がやるのだろうか?それは、もちろん、企業秘密であり、さすがに、前沢さん達も教えてくれるはずがない。とにかく、歴史に残る最高の始球式である。何としても、始球式の伝統の様式美を満たす最高の役者を選んでほしい。
 稲村亜美さんに登板してもらい、新記録となる105キロ超のストレートを見るのも悪くない。
 ホーキン先生の再登場?いやいや、滅相もない。あの札幌ドームでの心臓が破裂寸前の胸の鼓動だけで十分ですし、また、猛練習して、肩を痛めて恥じの上塗り投球になるに決まっていますよ。

 ただ、実は、最近、肩の調子はすっかり回復してましてね・・・えッ、そりゃぁ、どうしてもと頼まれれば、前沢さん達の顔も潰したくないし、断れないな・・・シーズン半ばの平日の試合くらいなら・・・。
 稲村亜美さんにリベンジするくらいが、小心者の僕には丁度良い妄想かもしれない。そろそろ、一応、投球練習再開いたします。

  • *1
    北海道ボールパークFビレッジ(北広島市)に建設中の新球場「ES CON FIELD HOKKAIDO(エスコン フィールド ほっかいどう)」