オピニオン Opinion

学士学位記授与式 告辞

壇上で告辞を贈る寳金清博総長

 本日、本学を卒業される2,465名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。北海道大学を代表して、心からお祝い申し上げます。また、慣れない環境、異国の地で、本学を卒業された留学生の皆さんに対して、重ねて、お祝い申し上げます。

 また、皆さんを支えてこられたご家族、関係者の皆さまに対しても、心より祝意をお伝えしたいと思います。さらに、この間、本学へのご支援を戴いた方々には、この場を借りて、深く御礼申し上げます。

 振り返りますと、皆さんが、本学で学んだこの数年間は、特別な時期であったと思います。多くの出来事がありましたが、やはり、二つの出来事を挙げなければなりません。

 まず、第一に、2019年末からの新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大が世界を一変させました。コロナ禍は、現在も終息の光は見えず、私たちは、未だに、暗いトンネルの中にいます。皆さんの卒業に向けての極めて重要な2年余りが、まさに、このコロナ禍であったことは、大変に辛い経験であったと思います。

 授業はオンラインという慣れない環境で行われました。また、課外活動は大きく制限されました。友人や教員との授業以外での人間的交流は、厳しく制限される状況となりました。さらに、コロナ禍による経済的な困難に直面された学生が多かったと思います。

 こうした厳しい環境の中で、研鑽を続けて、本日の卒業に至ったことは、大変高く評価されることです。

 このコロナ禍という歴史的な転換点で卒業を迎えることは、私たちを含め、この時代を生きる皆さん全てにとって、極めて重く、運命的なことです。このコロナ禍が私たちの生き方、価値観を大きく変える決定的なものになることを考える必要があります。そして、皆さんは、このコロナ禍の後に、New Norm、すなわち、「新しい規範」と言われる新しい社会の成立を迎えることになります。

 今回のコロナ禍によるパンデミックは、デジタル・トランスフォーメーションを加速し、日常生活の新しいルールの広がりなどを既に定着させています。

 もう一つの出来事は、卒業が間近になった2月24日に起こりました。突然、ウクライナにおいて平穏な生活が失われ、戦争状態に突入しました。第二次世界大戦以降も、20世紀から21世紀にかけて、アジア、中東などにおいて、私たちの世界から戦火が消えることはありませんでした。このことを私たちは、忘れてはなりません。特に、今回のウクライナの戦火は、規模が大きく、世界の平和と繁栄に対する根本的な不安をもたらしました。

 この状況を私自身、冷静に見ることができません。これから、世界はどこに向かうのか。その不透明さと不安定さに大きな不安を感じます。確実に言えることは、私たちは大変に難しい時代の入口に立っていることです。

 北海道大学では、人と人とが傷つけあうことを教育していません。皆さんも、振り返ってみると、そのような教育を受けなかったはずです。

 皆さんは、この不透明で不安定な世界情勢の中で、次の社会を作る中心的役割を担う世代となります。私たちも全力を尽くします。皆さんも、北海道大学で培った力を存分に発揮され、この変革の時代に平和と繁栄をもたらす担い手となってください。世界の平和と繁栄にとって、私たちの力は本当に微力ですが、決して、無力ではありません。世界を変える力になると信じましょう。

 本学は、まもなく創基150年の大きなマイルストーンを迎えます。この150年の間に、先人達が私たちにメッセージを残しています。その中でも、私たち北海道大学のメンバーにとってのsoul sloganは、クラーク先生の残した「Be ambitious」という勇気を与える言葉だと思います。

 私自身は、この言葉を、私たちの足元である北海道から、世界へ、私たちの教育、研究、そして、そこから生まれた人材を広げていくことだと解釈しています。これを「光は北から、北から世界へ」という自分なりの言葉でお伝えしています。「光」は、皆さんのような若い人材、そして、研究成果です。「北」は、もちろん、北海道大学のことも意味しますが、もっと広く、寒冷で厳しい気候・風土という私たちの環境を意味しています。

 このコロナ禍も含めて、まさに、厳しい環境だからこそ、次の社会を先導するイノベーションの光を北海道大学の卒業生である皆さんが放つことを期待しています。

卒業証書を授与する寳金清博総長

 美しい広大なキャンパスと日本全国、そして世界から集まる仲間達と過ごしたこの数年間は、まさに、「比類なき大学」での「かけがえのない時間」であったのではないかと思います。

 どうか、この誇りを胸に、今後の人生を力強く歩んでいただきたいと願っています。

 私たち、北海道大学は、次の大きな方針の一つとして、「社会との強い連携」を掲げています。本学は、社会の様々な組織や個人とのより強いつながりを求め、社会変革の起点となることを目指しています。

 今後は、皆さんが、同窓会の一員として、生涯にわたって、本学卒業生であることを誇りに思い、社会との連携の一つとして、同窓会を活用していただきたいと思います。

 最後になりますが、人類史上に残るコロナ禍の中、新たな人生の門出となる皆さんに、北海道大学総長として、最大限のエールを送りたいと思います。

 皆さんのこれからの人生の洋々たる前途を期待しております。本日はおめでとうございます。