オピニオン Opinion

修士,専門職学位,博士学位記授与式 告辞

壇上で告辞を贈る寳金清博総長

 本日、修士、専門職、そして博士の学位を授与された皆さん、おめでとうございます。北海道大学を代表して、心よりお祝い申し上げます。

 また、これまで皆さんを物心両面から支え、励ましてこられたご家族や関係者の皆様に対しましても、心よりお礼とお祝いを申し上げます。

 本日、学位を授与された修士課程1,559名、専門職学位課程65名、博士課程351名の皆さんは、それぞれの専門分野において、深い研鑽を積み、高い専門を修め、優れた研究成果を挙げられました。

 また、本日、学位を授与された皆さんのうち、修士課程では274名、専門職学位課程では11名、博士課程では96名が留学生です。

 慣れない外国で、英語の授業と日本語による生活という困難を乗り越えて、学業を成し遂げられたことは高く評価されるべきものであり、深く、敬意を表します。

 振り返りますと、皆さんが、本学で学んだこの数年間は、非常に厳しい数年間であったと思います。多くの出来事がありましたが、やはり、二つの出来事を挙げなければなりません。

 まず、第一に、2019年末からの新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大が世界を一変させました。コロナ禍は、現在も終息の光は見えず、私たちは、未だに、暗いトンネルの中にいます。皆さんの学位取得に向けての極めて重要な2年余りが、まさに、このコロナ禍であったことは、大変に辛い経験であったと思います。

 研究活動においては、指導教員との共同作業、あるいは、実験データ取得などの場面において、従来の対面および密集での作業が制限されました。さらに、友人や教員との授業以外での人間的交流は、厳しく制限される状況となりました。また、経済的な困難に直面された学生も多かったことと思います。

 その厳しい環境の中で、研鑽を続けて、本日の学位取得に至ったことに対して、心から敬意を表したいと思います。

 今回のコロナ禍によるパンデミックは、デジタル・トランスフォーメーションを加速し、日常生活の新しいルールの広がりなどが既に定着しています。このコロナ禍は、根源的な社会の変革をもたらすことは間違いありません。

 皆さんは、その次の社会を作る中心的役割を担う世代となります。このことは、大きな責任でもありますが、皆さんの力を持ってすれば、大きなチャンスでもあります。どうか、その力を存分に発揮され、この変革の時代の担い手となってください。

 もう一つの出来事は、卒業が間近になった2月24日に起こりました。突然、ウクライナにおいて平穏な生活が失われ、戦争状態に突入しました。20世紀から21世紀にかけて、アジア、中東などにおいて、私たちの世界から戦火が消えることはありませんでした。このことを私たちは、忘れてはなりません。特に、今回のウクライナの戦火は、極めて大規模なものであり、世界の平和と繁栄に対する根本的な不安をもたらしました。

 この状況を私自身、冷静に見ることができません。これから、世界はどこに向かうのか。世界情勢の不透明さと不安定さに大きな不安を感じます。確実に言えることは、私たちは大変に難しい時代の入口に立っていることです。

 北海道大学では、人と人とが傷つけあうことを教育していませんし、研究もしていません。皆さんも、振り返ってみると、そのような教育を受けていないし、そのような研究もしてこなかったはずです。

 皆さんは、この不透明で不安定な世界情勢の中で、次の社会を作る中心的役割を担う世代となります。私たちも全力を尽くします。皆さんも、北海道大学で培った力を存分に発揮され、この変革の時代に平和と繁栄をもたらす担い手となってください。世界の平和と繁栄にとって、私たちの力は本当に微力ですが、決して、無力ではありません。世界を変える力になると信じましょう。

卒業式典会場

 本学は、まもなく創基150年の大きなマイルストーンを迎えます。

 この150年の間に、先人達が残した言葉の中で、私たち北海道大学のメンバーにとってのsoul sloganは、クラーク先生の残した「Be ambitious」という勇気を与える言葉だと思います。

  私は、この言葉を足元である北海道から、世界へ、私たちの教育、研究、そして、そこから生まれた人材を広げていくことだと解釈しています。これを「光は北から、北から世界へ」という自分なりの言葉で発信しています。「光」は、皆さんのような若い人材、そして、研究成果です。「北」は、もちろん、北海道大学のことも意味しますが、もっと広く、寒冷で厳しい気候・風土という私たちの環境を意味しています。

 このコロナ禍も含めて、まさに、厳しい環境だからこそ、次の社会を先導するイノベーションの光を皆さんが放つことを期待しています。

 皆さんのような最高レベルの研究力、専門的技術力は、日本にとって最大の資源であり、国力の根源です。このところ、日本の科学力・知的創造力の低下が懸念されています。どうか、このような状況を乗り越えるためにも、私たち大学人も、新たに最高のアカデミアの一員となられた皆さんとともに、学術の発展に全力を傾けたいと思っております。皆さんの力に大いに期待しています。

 私たち、北海道大学は、次の大きな方針の一つとして、「社会との強い連携」を掲げています。本学は、社会の様々な組織や個人とのより強いつながりを求め、社会変革の起点となることを目指しています。

 今後は、皆さんが、同窓会の一員として、生涯にわたって、本学大学院の修了生であることを誇りに思い、社会との連携の一つとして同窓会を活用していただきたいと思います。

 最後になりますが、新たな人生の門出となる皆さんに、北海道大学総長として、心からのエールを送りたいと思います。

 皆さんのこれからの人生の洋々たる前途を期待しております。

 本日はおめでとうございます。