オピニオン Opinion

年頭のご挨拶 光は北から ----世界から見える比類なき大学へ----

寳金清博総長

 はじめに、元日に発災しました令和6年能登半島地震により亡くなられた方々に深く哀悼の意を表するとともに、被災されました皆様に心よりお見舞い申し上げます。

 年頭のご挨拶として、この機会をお借りして、未来に向けた北海道大学のビジョンをお話しさせていただきたいと存じます。

 大学には、それぞれに設立の経緯と建学の精神があります。北海道大学は、その設立の経緯の点では、多くの大学の中でも特異な光を放っていることは、これまでもご紹介したとおりです。言うまでもなく、建学の精神に代表される大学の多様性は極めて重要です。さらに、建学の精神の多様性、あるいは、大学の設立母体、地域性、規模にかかわらず、「大学」という組織には、共通した社会的存在意義があるのではないかと考えています。
 昨年7月に公表した本学の新しいビジョン、『HU VISION 2030』を策定するに当たって、どうしても、大学の普遍的使命を考える必要がありました。そして、熟議を重ねて、「教育」「研究」「社会共創」の三つの活動を通じて、持続可能な「地球」「社会」「人間」のWell-beingを目指すことが「大学」の使命と考えました。Well-beingは、国連の機関である世界保健機関 (WHO) がWHO憲章の中で「健康」の定義として使用した概念で、70年以上の年月を経て成熟し、世界に広まりました。さらに、国連総会で採択されたSDGsの宣言文で、どのような社会を目指すべきかを述べる文脈に盛り込まれるなど、非常に重要な概念として捉えられています。
 個人も家族も企業も政府も国連も、それぞれの立場から、Well-being実現に向けて努力をしています。しかし、「教育」「研究」「社会共創」の三つから、Well-beingを目指すのは、「大学」以外にありません。大学は、Well-beingを目指す無数の社会的組織の一つに過ぎないとも言えますが、その関わり方は特別なものです。

 今、地球の持続可能性は危機に瀕しており、人道主義の衰退も危惧されています。社会も個人もWell-beingからは程遠い状況です。しかし、この多層的な困難を乗り越えるために必要な三つの力が大学にはあります。一つ目は、こうした状況を変えようとする意志に満ちた人間 Global Citizenを生み出す教育の力、二つ目には、社会課題解決の起点となる科学技術によるイノベーションをもたらす力、そして、三つ目には大学の持つ多様な知を結集した総合知を社会に展開し、社会を変革する力、これら三つの力を生かす社会的存在をNovel Japan University Modelと命名しました。
 『HU VISION 2030』は、北海道大学が目指す、Excellence(卓越研究、融合研究、高度人材育成等)と、Extension(社会連携、スタートアップ創出、産学官連携の推進、イノベーターの輩出等)というベクトルの異なる2軸の融合による新しい大学モデルであるNovel Japan University Modelの行動指標です。詳細はホームページでも紹介していますので、是非、ご覧下さい。

寳金清博総長

 昨年末、大谷翔平選手が、ロサンゼルス・ドジャースと10年で約1000億円の契約を結びました。これは本学の一年分の予算額に相当します。彼はスポーツを通じて大きな社会的インパクトをもたらし、その大きさが今回の「10年で1000億円の価値」の評価を受けたのだと思います。一個人としては、おそらく、類を見ない大きな社会的インパクトだと考えます。
 企業、教育機関、医療機関、スポーツ団体、自治体、NPO、あるいは、無数にある小さな組織の総和が社会です。そして、社会にあるすべての組織は、その規模や設立の経緯に違いはありますが、それぞれが、巨大なものから微細なものまでを含めて社会的インパクトを生み出しています。
 北海道大学は、Novel Japan Universityとして、本学にしか生み出せない社会的インパクトをもたらす新しい大学を目指しています。一条の光を世界に放ち、世界から「見える大学」となるよう努めてまいります。2024年も、北から光を放ち、を目指す北海道大学を、どうか温かく見守り、様々なご支援を賜りますようお願い申し上げます。

 末筆ではございますが、令和6年能登半島地震被災地の一日も早い復興をお祈り申し上げます。