オピニオン Opinion

年頭のご挨拶 ----凪の時代の先に-----

寳金清博総長

 新年あけましておめでとうございます。

 本学をご支援いただいております関係者の皆様、ならびに地域の皆様、学生・教職員の皆様におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

 さて、本年2025年は、国立大学法人がその真価を問われ、社会と共に成長できるかどうかが問われる一年になると思います。そのことを説明させていただき、新たな一年に向けた北海道大学の抱負をお伝えし、新年のご挨拶とさせていただきます。

 ご存じのように、1990年代前半から2020年代前半までの約30年間、我が国では、消費者物価はほぼ変化がなく、むしろデフレ環境が続いた時期もありました。この間、日本の国際的な地位は低下したものの、国内的には、極めて安定した「凪」の時代を過ごしてきました。この「凪」の時期は、国立大学法人化以降の20年と重なり、「失われた30年」と言われる期間とも一致します。
 2004年の国立大学法人化は、国立大学が「護送船団」方式から、自律的な財務体制を構築して、教育・研究・診療を通じて社会の発展に貢献する公共体へと成長することを目指したものです。幸か不幸か、この法人化以降の20年余り、日本の経済成長は停滞を続けました。その結果、国立大学法人は、運営費交付金が減少する中においても、自助努力で外部資金を増加させることで、財務収支のバランスを保ち、かろうじて、大学機能を「維持」してきました。この状況が、実に、20年継続しました。大変皮肉なことですが、この「凪」の20年そのものが、これまで、国立大学法人の機能を維持することを可能にしたと言えます。

 ところが、一昨年あたりから、企業の設備投資が増加し、消費者物価指数も急速に上昇する中で、30年振りのインフレ状況となり、国立大学法人を取り囲む状況は一変しました。おそらく、今年は更に日本の経済成長が加速することが見込まれます。様々な評価はあると思いますが、日本はようやく世界の成長にcatch upしつつあり、そのこと自体は、歓迎すべきことです。
 しかし、国立大学法人や国立研究開発法人などのように、国からの運営費交付金を基盤的収入としている法人にとっては、直近の物価上昇や民間企業を中心とする経済成長は、新たな難題をもたらしました。それは、ただでさえ低下している運営費交付金の実質的価値がさらに低下し、成長する社会の中で、公共体としての国立大学法人の競争力・価値が、相対的に低下することを意味します。

寳金清博総長

 この状況が、冒頭に述べた「国立大学法人がその真価を問われ、社会と共に成長できるかどうかが問われる一年になる」と申し上げた所以です。
 冷静に振り返ると、法人化以降のこの「凪」の穏やかな20年がいつまでも続くはずがなく、むしろ、20年も続いたこと自体、変化のスピードが速い世界の中では、異例なことでした。国立大学法人は、この20年の猶予期間中に、想定し得る困難なシナリオに対して、先手を打って、実効性の高い財務基盤の強化策を早急に講ずるべきであったと思われます。
 一昨年、私たちは、2030年に向けた大学ビジョン「HU VISION 2030」を公表しました。このVISIONは、教育・研究・社会との共創・国際協働・ダイバーシティ・持続可能性の追求に加えて、財務基盤・ガバナンスの8つの視点から、「持続可能なWell-being社会」の実現に向けた北海道大学が目指す大学像を示したものです。ただ、急激な経済成長のシナリオが想定より早く現実のものとなった以上、財務基盤とガバナンスの強化に関しては、その取組を大きく加速する必要があります。これは、組織全体に大きな負荷がかかるものですが、これを成功させることができるかどうかは、北海道大学に限らず、全ての国立大学法人の真価が問われるものです。本学は、この一年、教職員一丸となって、「HU VISION 2030」の実現に向けた取組を加速させます。

 最後になりますが、改めて、今後の国立大学法人の財務運営のあるべき姿について述べたいと思います。
 国立大学法人の運営財務基盤の一つは、法人化によって与えられた外部資金や寄附あるいは基金や不動産の運用などによる財務的権限であることは事実であり、この最大限の活用を目指すべきです。
 それでもなお、国立大学法人は、私企業ではなく、この国の未来を担う高度人材育成にとって必須の公共体であり、国民共有の財です。従って、国立大学の財務運営のもう一つの柱が、運営費交付金という形で我々に付託した日本国民の意思にあることは当然のことです。今後の課題は、私たち大学関係者が、国立大学法人の意義に対する国民の理解をどう深化させるかにあると思っています。私たちは、今年一年、学生はじめ大学内外の多くのステークホルダーの理解を得つつ、広く社会全体に対して、国立大学法人の意義を伝えていく決意でいます。

 来年2026年、北海道大学創基150周年の記念すべきマイルストーンを迎えます。その意味でも、本年は、社会に対して、国立大学法人の活動ばかりでなく、現在の課題をお伝えする、天与の機会でもあると思っています。今後とも、皆様の北海道大学へのご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
 末筆となりますが、新しい年が素晴らしい年となりますよう、皆様のご健勝とご多幸を心よりお祈り申し上げます。

寳金清博総長
寳金清博総長