令和7年度学士学位記授与式 告辞
本日、本学を卒業される2,479名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。北海道大学を代表して、心からお祝い申し上げます。
また、皆さんを支えてこられたご家族、関係者の皆さまに対しても、心よりお祝いと御礼を申し上げます。さらに、この間、本学へのご支援をいただいた方々には、この場を借りて、深く御礼申し上げます。また、本日は、アメリカ合衆国領事のご臨席を賜り、深く感謝申し上げます。
本日、学位を授与される皆さんへお祝いと期待を込めて、学位の意味、高等教育の意味をお伝えしたいと思います。
大学の最も重要な使命の一つは、学生に対して、高度な教育の場を提供し、研究を支援し、その評価を行い、学位に相応しい業績を上げた人に対して学位を授与するという、学位授与機関としての使命です。これは、社会に存在する全ての組織の中で、大学に与えられた重要な権限であり、同時に、責任でもあります。
また、学位を授与された皆さんにも大きな責任と権限が与えられます。それは、これから先の社会が、どのような社会になるのか、言い換えれば、混乱と絶望の社会になるか、あるいは、持続可能なWell-being社会になるかは、高等教育を受け、学位を授与された皆さんの双肩にかかっているということを意味しています。
これまで、日本は、数千年の歴史の中で、徐々に人口を増加させ、特に明治維新以降は、爆発的に人口を増加させてきました。この人口増加は、世界でも見られ、世界の人口は現在80億人を超えており、2080年くらいまでは増加を続け、100億人を超えるとされています。
しかし、日本社会は今、かつて経験したことのない規模の人口減少という大きな転換点を迎えています。本日、学位を授与された皆さんは、この人口減少社会という歴史的な変化を真正面から受け止めながら、新しい時代の姿を構想し、形にしていく世代です。明治維新以降、社会は拡張と成長を前提に発展してきました。しかし、私たちは今、その前提そのものを見直す局面に立っています。これまでに確立されたモデルでは十分な答えを見出しにくいからこそ、皆さんの新しい発想と挑戦が求められているのです。
加えて、近年、私たちを取り巻く世界情勢は劇的な変化を続けています。まず、この数十年、気候変動により、地球環境の持続可能性に対する脅威が明確に可視化されました。また、緊張を増す地政学的環境の変化の中で、国際秩序の行方は大変に不透明になっています。
さらに、私たちの先人が、歴史の教訓から学んできた人道主義や多様性の価値についても逆風があります。また、科学技術の進歩やイノベーションが真に持続可能なWell-being社会をもたらすかということも議論され、科学そのものに対する疑念も生まれています。一方で、生成AIの登場は、人間の知性の在り方に対する根本的な問いを投げかけ、私たちの社会や日常に大きな変化をもたらしています。
こうして見ると、世界の課題先進国である日本社会の人口減少、世界の価値観の動揺、地球の持続性に対する懸念、人間の知性に対する人工知能の挑戦など、従来とは違った根源的な不安が、今のこの時代を覆っています。先行きの見えない不透明感と不確実性が世界を支配しています。
しかし明確なことは、私たちの今の時代は、「次の時代への移行期」であるという事実です。そして、その行方を決めるのは、他でもない、まさに本日学位を授与された皆さんであり、皆さん以外にはあり得ないということです。皆さんを私たちは、未来を切り拓く「フロントランナー」と称します。
今、述べたように、日本の将来、世界の行く末が、どれほど不透明で不確実であっても、皆さんが学位と共に得た専門知識と広範な適応能力をもってすれば、必ず、持続可能なWell-being社会の未来を創造するフロントランナーとして活躍するものと、私は確信しています。
北海道大学は、今年、創基150周年を迎えます。この150周年を迎える私たちが選んだ言葉は、「光は北から」というメッセージです。光は、まさに、ここにいらっしゃる皆さん一人一人を意味しています。皆さん一人一人の強い一条の光が、一隅を照らし、それは、やがて重なり合って、世界を照らすでしょう。私は「光は北から」という言葉に続けて、「北から世界へ」という言葉を続けています。どうか、皆さんの北からの光が世界を照らすことを期待しています。
本日の学位記授与式の最後に、本学の礎を築いた、札幌農学校初代教頭であるW.S.クラーク博士の人生について、改めて、皆さんにお伝えしたいと思います。なぜなら、彼の生き方は、150年の時間を経てもなお、この2026年の私たち、あなたたちの生き方に対する大きなinspirationを与えるからです。
クラーク先生は、今から150年前、1876年明治政府の依頼を引き受け、アメリカ大陸を横断し、太平洋を渡り、東京で英語を学んだ学生13名と共に、北海道にやってきます。当時の明治政府はまだ極めて不安定であり、また、当時の極東の地政学的状況は今以上に不透明でした。
札幌農学校の礎を築くというミッションを成し遂げると、彼は、「Boys, be ambitious, like this old man!」という、実にシンプルで、心に突き刺さるメッセージを残して、札幌を去ります。
これらのことから私たちが明確に読み取れるのは、彼の人生が、生涯を通じて、チャレンジそのものであったという事実です。クラーク先生の生涯は、学術や教育に留まらず、世界・社会を変えようとし続けたものであり、彼自身の言葉通りambitionに満ちた果敢な人生でした。
そして、クラーク先生と彼に同行した教師たちが目指したグローバル人材育成の結晶が、新渡戸稲造であり、内村鑑三であり、宮部金吾です。そして、150年の歳月を経て、こうした先人のDNAを受け継ぐ後継者が、ここにいる皆さん一人一人です。
皆さんは、私たちの最高のロールモデルであるクラーク先生の「Be ambitious」の精神を胸に、学びを続け、挑戦を続け、勇気をもって、この困難な時代を堂々と歩み、光を北から放ち、その光が世界を照らすことを期待しています
卒業生の皆さんのご健康と今後の大いなるご活躍を心から祈念して、私の結びの言葉といたします。