オピニオン Opinion

令和8年度入学式 総長告辞

壇上で告辞を贈る寳金清博総長

 2,588人の学部新入生の皆さん、本日は、北海道大学ご入学、誠におめでとうございます。

 北海道大学を代表して、皆さんのご入学を心からお祝い申し上げます。また、本日は多くのご家族の皆様にもご臨席いただいております。皆様に対しましても、心からお祝い申し上げます。
 本日の入学式では、この後、大型ビジョンにてビデオメッセージが放映され、多くの方々からのお祝いの言葉が届けられます。この150年という特別な節目の時に北海道大学へ入学された皆さんに寄せる大きな期待が語られます。どうぞご期待下さい。

 本日はまた、本学と連携しております主な自治体、企業そして寄附者の皆様にも入学式へご案内申し上げたところ、多数ご出席いただきました。ご多忙のところ、誠にありがとうございます。また、在札幌米国総領事館首席領事 ユキ・近藤シャー様、中華人民共和国駐札幌総領事館総領事 王根華様のご臨席をいただき、感謝申し上げます。
 さらに、ペナントレースが開始している中、本入学式をエスコンフィールドHOKKAIDOで執り行うにあたり、大変なご尽力をいただきました株式会社ファイターズスポーツ&エンターテイメント様に、心より御礼申し上げます。

グラウンド内の様子

 さて、本日の入学式は、ここ北広島市にあるエスコンフィールドで挙行いたしました。この場所で入学式を行うのは、長い北海道大学の歴史の中でも初めての試みです。
 先ほど申し上げたように、このエスコンフィールドでは、昨日まで、プロ野球パシフィック・リーグの公式戦が行われておりました。従って、この入学式のリハーサルはできず、本学職員が、今朝早朝から、手作りでの準備を全力で進めてきました。そのため、入学式の中で、至らぬところがあり、皆様にご迷惑をおかけすると思います。ただ、私たち北海道大学は、「Be Ambitious」を最も大切な言葉にしています。この入学式が、チャレンジそのものであり、Ambitiousそのものですので、どうか、そのようにご理解いただき、この何が起こるかわからない入学式を楽しんでいただければ幸いです。

 最初に、なぜ入学式をこの北広島のエスコンフィールドで行うのか、そしてそれに関連して、北海道大学の歴史についてお話ししたいと思います。

 今から150年前の1876(明治9)年、欧米の大学に匹敵する高等教育機関を目指し、明治政府により「札幌農学校」が設立されました。これが北海道大学の前身であり、日本で最も早く設立された高等教育機関の一つです。
 札幌農学校では、米国流のリベラルアーツ教育が行われていました。「リベラルアーツ」とは、「幅広い一般教養」を意味します。設立当初から、農学のみならず、数学、化学、生物学、さらには歴史学や経済学に至るまで、多様な基礎教育が英語で実施されていたことは、本当に驚くべきことです。これは今日(こんにち)においても、極めて先進的なことであり、現在、北海道大学が国際的な教育基盤の強化を進めている原点は、まさに150年前の札幌農学校にあります。
 以来、北海道大学はリベラルアーツ教育を通じて、四つの基本理念を培ってきました。すなわち、新しい学問領域を探求する「フロンティア精神」、国際人としての素養を身に付け、多様性を尊重する「国際性の涵養」、人間形成の基盤を培う「全人教育」、そして、得られた成果を社会に還元する「実学の重視」です。
 また、本学の札幌キャンパスは、日本でも有数の多様性とスケールを誇り、四季を通じて美しく、他に類を見ない素晴らしい大学キャンパスです。また、函館キャンパスや多くの地方研究施設、さらに日本最大の研究林を含めると、本学は大学が保有する土地面積として日本最大規模を誇ります。こうした環境から、持続可能性や多様性といった、北海道大学の価値が生まれています。

宣誓をする新入生

 ここで、新入生の皆さんにぜひ知っておいていただきたいことがあります。札幌キャンパスの地は、札幌農学校が設置される以前、先住民族であるアイヌの人々が暮らし、日々の生活を営んでいた場所でした。水や緑に恵まれた豊かな土地は、アイヌの人々にとっても、大切な生活の場であったと想像されます。この地に学ぶ私たちは、こうした歴史を忘れてはならないと思います。この歴史を学ぶことは、民族的多様性の尊重や多文化共生というグローバルな目標を目指す北海道大学の進むべき方向を改めて認識することにつながります。
 本年3月には、アイヌ民族がこの地で長い歴史と文化的なつながりを持ってきたことに深く敬意を表し、歴史的経緯を語り継ごうという、私たちの思いを込めた掲示を大学正門付近に設置しました。ぜひご覧ください。

 本年は北海道大学創基150周年にあたる記念すべき年であり、多くの記念事業を予定しています。その一環として、本日のエスコンフィールドでの入学式を挙行いたしました。
 北海道大学の前身である札幌農学校初代教頭のWilliam S. Clark博士が、「青年よ、大志を抱け」「Be Ambitious」という言葉を馬上から残し、一期生に見送られて米国に帰国されたのは、今から150年前、1877(明治10)年4月のことです。その最後の別れの地が、ここ北広島市でした。まさに、皆さん、北大創基150年目の入学生を迎えるに相応しい土地です。
 本日お配りしている『北大と北大生の150年』は、北海道大学の歩みが日本の近現代史と重なっていることを理解できる一冊です。ぜひお読みください。

チアリーダー部

 今、世界は大きな転換点に差し掛かっています。人工知能、すなわちAIが世界を変えつつあります。その変化のスピード、人間社会に与えたインパクトの大きさは、私たちの想像を遥かに超えるものです。
 私たち人間の脳が持つ能力には、知性、感性、理性の三つがあります。
 まず、知性に関して。人間の言語が持つ曖昧さを扱うことのできるLarge Language Modelの登場により、様々な文章や論文を生成するAI、教育や学習を支援するAIなどが急速に発展し、人間の知性の一部をすでに凌駕しています。
 では、感性はどうでしょうか。Large Language Modelを基盤としたAIの誕生からほどなくして、画像・動画・音声といった多様なデータを扱う生成AIが登場しました。これにより、絵画、音楽、映画など、長らく人間の感性のみが担うと考えられてきた領域にあっという間にAIが入り込むようになりました。
 さらに、近年では、生成AIの一形態として、DNARNAなどの遺伝子配列を読み取るGenomic Language Modelが出現し、人間や生命体そのものをAIが分析するようになりました。
 このように、人間が持つ知性・感性・理性の三つの能力のうち、知性と感性については、生成AIが急速に追いつきつつあります。実際、近年では自律型のAI Agentも活躍しており、モルトブックというAIエージェント同士が対話するSNSまで登場しています。
 今後、人間に匹敵する汎用型人工知能、すなわちAGIArtificial General Intelligence)が実用化されるのは時間の問題とも言われています。ある種の感情を含む、Creativeな能力においても、AIは人間に迫りつつあります。

 どの学術分野においても、このAIの時代に生きるには、皆さんも含めて私たち教職員も、知性・感性・理性の磨き方を根本から考え直す必要があります。
 文学部、経済学部、教育学部、法学部などに入学された皆さんが将来関わる行政、金融、教育といった分野においても、AIによって職務が代替される可能性が指摘されています。同様に、工学部、理学部、農学部、水産学部で学ぶ皆さんにとっても、AIの脅威は決して他人事ではありません。実際、シリコンバレーでは、生成AIの登場によって職を失ったのが、理系人材であったと言われています。医学、薬学、獣医学、歯学などの生命科学・ヘルスサイエンス分野においても、診断、治療、創薬といった領域で、すでにAIの活用が進み、人間の関与が大幅に減り始めています。
 さらに、全ての研究分野において、人の介在を必要としない、いわゆる「光のいらない研究室」、すなわちDark Labが出現しつつあります。AIが自ら研究計画を立案し、実験・測定を行い、結論を導き出す時代は決して遠い未来ではありません。すでに、Dark Labは一部で実用化されています。

応援団

 入学の日にふさわしくない話をしてしまったかもしれません。しかし、人間には理性があります。AIによる急激な社会変化の中にあっても、次の時代への大きな転換期を、自らの手で創り出すことができると、私は確信しています。そして、それに向けて、私たち大学自身も変革していく必要があります。
 皆さんは、AIの時代を切り開き、AIを生かし、これを使いこなしながら、少子化、環境問題、エネルギー問題といった社会課題を解決していくフロントランナーです。
 皆さんの時代には、月面での長期滞在が実現し、人類が火星へ到達し、核融合などの持続可能なエネルギー源が実用化され、多くの疾患が遺伝子編集などの新しい治療法で克服されるでしょう。環境を再生させながら食糧を安定供給する技術が定着し、世界の平和を維持する新たな仕組みが生まれる時代であるべきです。北海道は、自然と調和しつつ新産業を創出することで、世界が憧れる豊かなデジタル田園都市を実現し、日本の成長と発展を牽引する地域になるはずです。

合唱部

 北海道大学で学ぶ皆さんにはこうした大きな時代の転換期を乗り越える力を養うための、素晴らしい環境があります。何より、北海道大学には、12の学部と21の研究科・学院等があり、日本で最も幅広い学問領域をカバーする総合大学です。
 北海道大学に入学された皆さんには、この恵まれた教育環境を活用し、多様性や国際性、真理を追求する実学を通じて、社会課題を解決する力を身につけてほしいと願っています。

 クラーク博士が目指した、当時のAmbitious Challengeは、寒冷な北海道の地に先進的な農業を確立することでした。これは、当時の明治政府の国策でもありました。
 それから一世紀半、150年の時を経て、この挑戦は、安定的な食糧生産のための研究という形へと進化し、現在も続いています。
 そして今、再生可能エネルギーの実用化、さらには先端半導体を核とする新産業創出を目指す「北海道デジタルパーク構想」が、北海道大学の第二のAmbitious Challengeとして、動き出しています。
 このように、北海道大学は、一貫して、イノベーションへの果敢な挑戦を続ける、まさに、Ambitiousな大学です。今日のこの入学式がまさにAmbitious Challengeです。挑戦しない大学、挑戦しない総長や教職員の下に、挑戦するAmbitiousな学生が生まれるはずがありません。

合唱部

 北海道大学は、「Be Ambitious」の精神を150年にわたり脈々と受け継いできた、比類なき大学です。これからの4年間、6年間、10年間に及ぶ北海道大学での生活が、皆さんに大きな成長をもたらすことを心から祈っております。
 皆さんのこの素晴らしい北海道大学への入学を、改めて心よりお祝い申し上げます。

 以上をもちまして、私から新入生の皆さんへの告辞といたします。

令和8年4月6日
北海道大学総長 寳金 清博