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挨拶・式辞

2026/09/26
北海道大学創基150周年記念式典 総長式辞

 北海道大学は、明治9年(1876年)、札幌農学校としての創基以来、幾多の変遷を経て、本年で150年を迎えることとなりました。本日、ご臨席賜った、文部科学大臣 関芳弘様代理 文部科学省文部科学審議官 柿田恭良様、北海道知事 鈴木直道様、札幌市長 秋元克広様、北海道アイヌ協会理事長 小川哲也様はじめ、会場に足を運んでいただいた皆様に心から御礼申し上げます。また、遠方よりご臨席賜った海外の大学の皆様に深く、御礼申し上げます。そして、これまで、本学の発展を支えていただいた、政府関係機関をはじめとする関係者の皆様、国会議員の皆様、国立大学法人をはじめとする大学関係者の皆様、そして、北海道の多くの自治体、ご支援いただいた企業・団体、そして、全ての道民の皆様に深く感謝を申し上げます。

 北海道大学の前身である札幌農学校が設置された明治9年、札幌の人口は2千人に満たないものであり、当時、すでに、人口50万人を超えていた東京や長い歴史を持つ大阪、京都、名古屋、金沢などの当時の本州の大都市と比べれば、人口規模で言えば、全く、比較にならないものでした。
 ただ、北海道は、広大な土地と恵まれた自然資本があり、食糧生産政策の実現の最適地であったことは間違いなく、そのことは、現在、食糧安全保障という言葉に置き換えられていますが、この150年間変わらず、2026年の現在に至るまで、北海道における不変的かつ最重要な価値であったことは間違いありません。その農業を中心とする産業を担う人材育成のために、明治政府は、当時としては、破格の予算を計上し、札幌に人材育成のための高等教育機関が作られました。
 明治初期から、現在に至るまで、北海道は日本の成長のエンジンであったことは、北海道大学の在り方に関わる大きな要素です。こうした、札幌農学校の遺伝子は、建学の四つの理念の一つである「実学の重視」に継承されており、150年を経た現在も、学術の社会実装は北海道大学の大きな目標です。

 現在、大学は、厳しい危機に直面していると同時に、世界と地域にとってイノベーションの原動力としての大きな期待を担っているという二つの課題を抱えています。
 第一の厳しい危機は、言うまでもなく、人口減少と生成AIの登場により、大学が、その社会的存在意義を根本から問われる点です。
 大学入学対象となる人口の減少は大学の存続に関わる深刻な問題です。また、知の拠点としての機能もAIによって脅かされつつあります。これに対して、北海道大学は、学生教育・人材育成の在り方や大学院や研究所における研究の在り方を大胆に変えて参ります。それについては、北海道大学は、新しい日本の大学モデル「Novel Japan University Model」というビジョンを掲げています。
 一方、第二の期待という点で、大学は、社会や産業構造を変えるイノベーションの原動力として注目されています。20世紀の後半から現在に至るまで、米国、英国、そして、最近では中国や台湾の大学の先端研究が、社会や産業構造を根本的に変換させてきました。現在の北海道がもつ可能性は、本学の黎明期であった明治初期に想定された可能性と類似していますが、その規模、意義、実現可能性、スピード感など全ての点で、比較にならない大きなものとなっています。多少の思い上がりを許していただければ、北海道の今後の10年の発展の成否は、日本再興の命運を左右する最重要な条件の一つと考えています。現在、半導体・AI、再生可能エネルギー、持続可能な環境再生型の食糧生産など、北海道大学が果たす役割は、明治期のそれと比べて、異次元に大きなものになりつつあります。こうした社会の付託に、北海道大学は今後も真正面から応えたいと考えています。設立時の札幌農学校のミッションが、寒冷地農業の確立であり、それを「第一の挑戦」とすれば、新しい産業の創成と再生可能エネルギーの社会実装は、創基150年の本学の「第二の挑戦」と位置付けています。

 しかしながら、大学の使命はそれだけではありません。世界を変える先端技術は、しばしば、若手研究者の小さな萌芽的研究から生まれます。あるいは、人文社会科学がもたらす倫理や思想の転換、歴史の研究などが社会に大きなインパクトを与えることは歴史が証明しています。今後も北海道大学は、未来の社会を創造する新規研究の「ゆりかご」であり続けたいと願っています。その中から、ノーベル賞を受賞された鈴木先生・リスト先生と同様に世界的な研究業績が、北大から生まれる日は遠くないと思っています。
 また、差別や貧困など社会から注目されにくい課題に向けた研究者の視点を尊重し、世界の存続を危うくする気候変動や民主主義・平和への脅威に対しても、大学として、取り組むべきと考えています。

 去る7月27日、北海道大学は、昭和初期に行われたアイヌ研究の在り方とアイヌのご遺骨や副葬品の収集・保管に対して、反省と謝罪を表明しました。
 今回の調査報告を振り返って思うことは、現代においても、研究者が意識しないうちに、その時代のイデオロギーや研究者自身が意識しない無意識の差別意識がその研究の中に埋め込まれてしまう危険性があるということです。さらに、現代は、生成AIという新しい知性が出現し、研究の在り方を根本的に変えつつあります。
 今回の研究の反省から私達研究者が教訓とすべきことは数多くありますが、それを過去の負の遺産とせずに、そこで明らかにされた問題を未来への教訓として語り継ぐことが私たちの責務だと考えています。

 北海道大学は、その創基以来、クラーク博士の「大志を抱け」という強い建学の精神性を持つ大学であり、国立大学としては特異な大学です。
 しばしば、「大志を抱け」の精神は、例えば、司馬遼太郎の「坂の上の雲」に登場するような、明治期の青年の眩しいほどの自己肯定感と国家の未来を担うような上昇志向を鼓舞する言葉と解釈されています。しかし、私は、クラーク博士の真意は、もう一つあったと思っています。クラーク博士は、自分が去った後、見送りの学生達がこの東洋の小国、中でも自然環境の厳しい北国で今後も苦闘の日々を送るであろうことを想像し、困難に挫けることなく、一隅を照らす人間として成長することへの精一杯の激励として残した言葉と理解しています。
 150年の時を経ても、日本が資源やエネルギーの点では東洋の小国であることには変わりなく、加えて、北海道は、未だに「北の大地」という言葉で語られています。「大志を抱け」の真の意味は、逆境に屈しない逞しい生き方であり、その不屈の強さがなければ、北海道大学に存在意義はなく、まして、輝かしい未来などあろうはずがありません。

 今後も「大志を抱き続ける」北海道大学の次の150年、そして、200年に向けて、末永いご支援をお願い申し上げ、私の挨拶とさせていただきます。

令和8年9月26日

第20代北海道大学総長
寳金清博