News

「酪農から見えてくる北大観光の未来」が開催されました

  • news

9月18日(火)、「酪農から見えてくる北大観光の未来」が開催されました。「酪農」という視点を通じ、北大観光の未来を語り合う場として、本学に造詣が深いスピーカーとともに、フィールドワーク、 ディスカッションを行いました。
当日は、朝9時に学術交流会館に集合し、進行役の木村宏さん(北大 観光学高等研究センター 特任教授)のもと、参加者の自己紹介から始まりました。本学内外から、酪農や観光に見識のある28名が集いました。

(右手が木村さん 北大の「表」の顔、農場ツアーに出発です!)

その後、重要文化財である札幌農学校第2農場に移動し、二手に分かれて見学しました。案内役は、近藤誠司さん(北大 名誉教授)と、ボランティアの大山圭也さんです。

(解説をする近藤さん(左)、大山さん(右))

(牝牛舎)

明治10年に造られたモデルバーン(耕馬、産室、雑牛追込所)では、乳牛の飼料はすべて乾草で賄われていたため、1階は牛床で、2階は乾草収納庫になっています。乾草庫から床に開けた穴を通して、牛床へ乾草を投下するため、搾乳や糞尿処理が一度に行える対尻式で飼育されていたそうです。その他にも牛舎の換気システムや、冬季の飼料を貯蓄するサイロなどについて説明がありました。

(モデルバーン(耕馬、産室、雑牛追込所))

(乳牛のお尻が向かい合う対尻式構造。牛のレプリカで再現されていました)

続いて、40頭の乳牛が飼育されてる、第1農場に移動しました。三谷朋弘さん(北大 北方生物圏フィールド科学センター 助教)の案内で、現牛舎と農場を見学しました。第1農場の特徴として、乳牛の糞尿をバイオガスプラントで処理していることが挙げられます。通常は、数日間発酵させたものを肥料にすることが多いそうですが、ここ第1農場は都市の真ん中に位置しているため、匂いの問題などから、バイオガスプラントを採用しています。糞尿をメタン発酵させることにより、匂いの元となるメタンガスを取り除き、残った液体を肥料として使用します。8年前より、化学肥料ゼロで牧草地を維持しているそうです。メタンガスは、発酵を手助けするのに活用しています。

(牛舎の前で、三谷さんの説明を聞く参加者たち。放牧地に入る前に、靴に乳牛を伝染病などから守るためのカバーを付けます)

(手前の銀色の建物がバイオガスプラントです)

また、最近では、乳牛の飼料を海外からの輸入品で賄っている農場が多いですが、第1農場では、夏は牧草、冬は夏に貯蔵したもので賄い、できる限り本学で獲れた飼料で牛乳を搾るよう工夫しているそうです。その後、第1農場のすぐ近くにある、平成ポプラ並木の下で昼食を取りました。朝絞ったばかりの牛乳も振舞われ、参加者全員で味わいました。

(都市の中に放牧地が広がっています)

(大きなブルーシートを広げて、和気あいあいとお弁当をいただきました。やかんの中身は北大牛乳です

午後からは、学術交流会館へ移動し、座談会が行われました。座談会も引き続き、木村さんの進行のもと、モデルバーンの解説をした近藤さん、第1農場の案内役を務めた三谷さんをはじめ、小山邦武さん(元長野県飯山市長、現信州味噌(株)取締役会長)、尾田栄章さん(元建設省河川局長、「行基さん大感謝祭」実行委員長)、和田康広さん(札幌市観光・MICE推進部観光魅力づくり担当課長)が、酪農と観光、それぞれの視点から語り合いました。

和田さんのお話では、本学に観光で訪れる人も多く、札幌市の調査では、海外から年間50万人もの観光客が訪れているそうです。「その土地の文化や歴史に触れたり、実際に何かを体験できたり、『訪れた場所で学べる』ことが今後の観光のポイントなのでは」と話していました。

(札幌市観光・MICE推進部観光魅力づくり担当課長 和田康広さん)

尾田さんは、「札幌市の観光を今後どうすべきか、その中での北大の位置づけや、北大の酪農をどう活かしていくかは、官ではなく、民である北大自身が考えること。その上で、官と上手く連携していくことが重要だと思います」と話します。

(元建設省河川局長、「行基さん大感謝祭」実行委員長 尾田栄章さん)

本学のOBでもある(1959年 農学部畜産学科卒)小山さんからは、「観光客に北大の魅力を知ってもらうためには、重要文化財である第2農場は勿論、都市の中の異空間である第1農場の価値を、まずは北大の人々、そして、札幌市民全体で理解・共有していくことが不可欠ではないでしょうか」という意見をいただきました。

(元長野県飯山市長、現信州味噌(株)取締役会長 小山邦武さん)

こうした発言を受けて、「農場に赴任した当初は、農場に外部の人を寄せ付けないようにしていました。しかし、最近では、ここの価値を理解し始め、それを伝えるにはどうしたら良いか模索するようになりました」と三谷さん。三谷さんは、北大牛乳の販売にも力を注いでいます。近藤さんもまた、「札幌の憩いの場として知ってもらえるよう、前向きに考えたいです」と話していました。参加者からも様々な意見が飛び交い、観光のパワーを上手く使いこなしていくための仕組みづくりの重要性などについても語られました。

都会の真ん中に存在する、北大農場。それは、長い歴史の中で守られてきた空間であり、研究や学びの場です。教育・研究と観光の共存の道を探りながら、その価値をいかに伝えていくか、今一度考え直すきっかけになりました。

【関連記事】
「酪農から見えてくる北大観光の未来」開催のお知らせ

(文・写真:総務企画部広報課 研究広報担当  菊池優)

 

掲載日:2018年10月4日