このたび,理学研究科数学専攻の小野薫教授が2005年度日本数学会秋季賞を受賞されました。
この賞は,毎年秋に顕著な業績を上げた日本人の数学研究者1名に与えられるもので,日本の数学界における最高の賞の一つです。同氏はシンプレクティック幾何学と呼ばれる研究における国際的指導者の一人であり,近年重要な成果を継続的にあげられており,今回の受賞は周囲より至極自然なことと受け止められています。シンプレクティック幾何学は多様体の余接束上のハミルトン力学系の研究に端を発し,80年代後半以降は,大域解析学,微分幾何学,トポロジー,代数幾何学,数理物理,非線形解析,特異点理論などのあまたの分野が交錯する,肥よくかつ重要な研究分野となっています。
同氏の業績には「アーノルド予想」の解決, 「ラグランジュ部分多様体のフレアーホモロジー理論」の建設,「複素孤立特異点のリンクのシンプレクティック・フィリング」などがあり,これらシンプレクティック幾何学の中心的テーマにかかわる仕事を深谷氏(京都大学),太田氏(名古屋大学)らと共に精力的に進めて来られました。そしてこれらは力学系や数理物理におけるミラー対称性等への応用,および低次元トポロジーや複素特異点理論に対する新しいアプローチを提供するものです。とくに最近,同氏はこの20年来の懸案の未解決問題であった「フラックス予想」を肯定的に解決しました。この予想はシンプレクティック幾何学における基本的問題であって,「シンプレクティック多様体上においてハミルトン力学系から定まる微分同相(時刻1写像)全体のなす群がシンプレクティック微分同相群の中でC1級の閉部分群となる」というもので,
同氏自身が発展させてきたフレアーホモロジーとノビコフホモロジーの研究を駆使して解決に至りました。
これらの業績は数学の発展に大きく貢献するものであり,北海道大学の名が世界的に高められることとなりました。今後も同氏においては数学全般にわたって指導的な役割を担われることが期待されます。 |