特集 北大のキャンパスから水と緑のまち札幌へ
大学と市行政のコラボレーション 対談 放送大学長 丹保 憲仁さん 札幌市収入役 牧野 勝幸さん インタビューアー 北方生物圏フィールド科学センター 植物園 助教授 冨士田 裕子

       北大は大都市札幌のコア的存在
冨士田  北大キャンパスはほんとうに大都会の中央に位置していますね。
牧 野  キャンパスには近所の方や観光客の方が常時来られています。大都市の中心部にこれだけの規模の面積と施設をもった市民の憩いの場は、全国どこにもないでしょう。建物をはじめ歴史的に貴重な要素もたくさんあります。札幌市の大きな財産なのはもちろん、日本の財産といえます。外から来られる人たちに札幌の良い印象を持ってもらえる所だと思います。
 どんどん手を入れる公園が多いなか、今回のサクシュコトニ川の再生は、原初の姿に戻すことは無理でも、近づけることは可能だと思います。環境への意識から、市民もこれからはその方向にいくと私は思っています。
丹 保  ぼくが市内の付属小学校に通っていたころ、ここは札幌市民の公園でした。総長になって夢見たのは、大学の塀を全部取っ払って二重、三重に並木をつくることでした。そこに環状道路をつくりましてね、車がいつでも停められるが中には入れない。10何キロある周囲に幅10メートルのグリーンベルトをまわして、土曜、日曜に解放します。ご自由にといったら、市民はみんな車を停めちゃいますよ。いまは金がないからできないでしょうけど、北大ならそれができると思うのです。学生も中には歩いてきなさい、とね。
冨士田  今回は景観の復元のほかに、先生のお話では生態系の機能の回復がもうひとつ目標にあるといえますね。
丹 保
 ぼくが総長のときにもう一つ、リスを呼び戻したいという夢がありました。みんな公約だと思っていて、「あいつ、まんまと失敗した」と思っているようですが、いろいろ聞くとリスを飼うのはたいへん難しいんですってね。500メートル四方に一つがいだそうで、北大全部でも20、30つがいは無理なんですって。20つがいでは維持できません。仕方がないから、アメリカの大学みたいに正門を入ってすぐに「エゾリスのエサあります。200円」というのはどうかなと。春日神社のシカもせんべいを食べてます。100円や200円ならみんな買ってくれると思うし、冬も大丈夫。
2003年9月 横田 篤氏撮影
2003年9月 横田 篤氏撮影
冨士田  以前先生が放したエゾリスが植物園のほうに移って繁殖していたことがあるのですが、これはこのキャンパスから伊藤さんのお宅を通って植物園まで緑が続いているということですね。市には、札幌市内を緑の回廊で繋ぐというプランがあるそうです。そうなれば、北大で放したリスが増える可能性があると思うのですが。
丹 保  ですから新川、石狩まで川をつなげろという話をしています。そして、とにかく木を植える。そうすれば石狩砂丘まで繋がります。そして植物園と大通公園も含めた大きな緑の回廊をつくる。これを言うとまた叱られますが、大通公園はいまのような人工花壇でなく、ちゃんとした森にして川を流せば、生態系が再生します。リスだってキツネだって来るかもしれません。あとは創成川を通せば豊平川まで繋がります。そうしないと札幌はもう動物に嫌われてしまいますよ。
 しかし、それには北大がちゃんとしていないとだめなのです。コアが必要なのです。北大が札幌の中央にある重要性を認識する人は少ないですね。

       これからは市民との協働が重要
丹 保  堀前知事のときに道庁の池もつなぐことを提案しましたが、土木部が反応してくれませんでした。知事とは、あんな茶色になったドブみたいのは池じゃないと話したんですけどね。
牧 野  市のほうにも反省点があります。行政は行政の仕事をやればいいというのがいままでの形でした。しかし、だんだん規制緩和とか地方分権の時代になり、昨年あたりからいろんなところと協働して仕事をしようということになってきました。市民、NGO、企業、町内会…大学や高校などの学校、いろいろな協働が考えられますね。今回のサクシュコトニ川は、協働、コラボレーションが具体的な形で実現した数少ない例のひとつだと思います。
丹 保  大学の人間も、大学の管理運営となると苦手ですよ。しかし、独立行政法人になってようやく、総長の決断力と責任が明確になります。トップがやっとリーダーシップを発揮できる。法人化は難しい面もありますが、これは良いことだと思います。
冨士田  生態系の機能の回復となると、大学人だけではできませんね。
丹 保  大学の婦人協会では留学生へのサポートとしてガレージセールという中古品を安く分けたりする活動をしています。このようなボランタリーな協力はとてもありがたいものです。
牧 野  市でも、市民の協力を得て札幌が活性化することを願っています。そして、一つの成果が出れば、それを外にPRする。役所は昔から外への発信が下手で、恐縮しています。
丹 保  それは大学にも言えます。自分の論文は書くけれど、それ以外のことは…。だからなかなか理解もサポートももらえないのです。

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