特集 北大のキャンパスから水と緑のまち札幌へ
大学と市行政のコラボレーション 対談 放送大学長 丹保 憲仁さん 札幌市収入役 牧野 勝幸さん インタビューアー 北方生物圏フィールド科学センター 植物園 助教授 冨士田 裕子

       ロングスパンでものを見る
丹 保  理学部前のポプラを切る時、反対運動が起きたことがありましたね。私が総長最後の年で、あれは断面図を見たら中が空洞だったのです。
 ポプラの寿命はせいぜい100年。有名な第一農場のポプラ並木の一番古いのも百年で、伐採反対が起きたポプラはもう67年目でした。北海道大学にもしポプラ並木がなくなったら、シンボルを無くしたのと同じです。それで西門のところから180メートル、平成のポプラ並木をつくったのです。50年経てば、きっとすごい並木になりますよ。
冨士田  キャンパスツアーなどで北大の自然が見直されているようですよ。
丹 保  それはあるものを活用する良い例ですね。しかし、100年かけてつくろうというのとは違います。あるものを食ってしまったら終わりです。エコキャンパスは、長いスパンでものを見ないといけません。樹齢400年というニレは簡単にはつくれません。いま植えたものは、200年後にはそこそこの木になるでしょう。それにもサクシュコトニ川の再生は必須なのです。
牧 野  市の費用の投資効果を皆さんに知ってもらうことも大切ですね。
丹 保  ネガティブに価値喪失を計算することも必要ですよ。放っておいたら、どんなマイナスが起きるかです。北海道大学というのは、このキャンパスがあってはじめて認知されています。これを失ってしまったら大変です。
冨士田  今回のサクシュコトニ川の再生は、これからのキャンパスをロングスパンで考える第一歩なのですね。

       緑のキャンパスにさまざまな人が行き来する大学に
牧 野  私は学生のとき、いかに勉強から逃げるかばかり考えていましたが、社会に出ると逆にいろんなことを経験していろいろなものに興味を持ち、もう一回勉強してみたいと思うことが何回かありました。そういう連中が大学に来れば、こんどは意欲を持って勉強するでしょうね。
丹 保  自分のところの宣伝になりますが、放送大学はそういうシステムです。100人の教授と、客員を入れても800人の教員しかいませんから、それなりの講義しか出せませんが、これからは諸大学もそういう方向に動くと思います。
 ぼくはヨーロッパで500年、日本でいえば150年続いたこの大学のシステムは、あと15年もつかどうかとかなり懐疑的な考えをもっています。固定的な学部学科システムはなくなると思います。世の中が変化して多様な視野でものを見る必要が高まったからです。たとえば、工学も経営もわかる人材なんて、一回の卒業ではできません。最近では福祉や健康や安全など、人間のことを視野に入れない分野はほとんどありませんし。アメリカの大学では、学期ごとに3分の1ぐらいの学生が動くそうです。来学期は1,000人増えるとか。
冨士田  仕事も一度企業に入ったら定年までいる時代ではなくなりました。
丹 保  企業自体もそんなに長くもつ時代ではない。新しい学部ができたり潰れたり。
 こうなると何度も出たり入ったりできる学校にしなければなりません。しかも40歳とか50歳の人がぞろぞろ出たり入ったり。ボコボコと穴があいてもかまわないというシステムをやらざるをえない。もしかして、クラーク先生時代のユニバーサルな教育に戻るのかもしれません。そのとき、キャンパスは絶対的なよりどころとなります。自分の心が帰る家のようなものです。
 20年ぐらい前の「近過去」に失われたキャンパスの再生には倍ぐらいの時間、ぼくは50年、半世紀だと思っていますが、努力さえしていれば戻ります。みんな気づいてきたし、ようやく引き金が引かれた感じです。
 サクシュコトニ川の再生で緑と生態系をとりもどしたとき、北大は全国のどこにもないような素晴らしい大学になりますよ。
冨士田  本日は貴重なお話を伺うことができました。本当にお忙しい中ありがとうございました。

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