文系部局

○思索と言語(はじめての認知言語学) 文学研究科・教授・高橋 英光

1 授業の目的と内容

この授業は,言語学の新しいパラダイムである認知言語学の考え方を学びながら言葉の仕組みを理解することと,英語と日本語を含めた言語一般についての理解を深めるのが目的である。受講者は文系,理系のほぼ全学部の1年生である。

言葉は「単なるコミュニケーションの手段」と思っている学生は多い。この講義は,言葉は世界認識の方法でもあること,言葉がヒトの認知と身体経験の支配下にあることを示す様々な事例を紹介した。これと平行して日本語や英語を世界の言語のなかに位置付けた。

2 授業の工夫

このクラスでは,一回目の講義(ガイダンス)で簡単なアンケートを行った。アンケート前半は,言葉にまつわる「民間説」,例えば「日本語はむずかしい言語である」「英語は論理的な言語である」「女性は男性よりおしゃべりである」など,を10個提示しそれに対してクイズ形式で「自分もそう考えるなら ◯,そう考えないなら ×,どちらとも言えないなら?」を答えてもらった。後半は「日本語や英語あるいは言語について知りたいこと,疑問に思うこと,印象に残る個人的経験」を自由に書いてもらった。二回目の講義でアンケートの集計結果を公表し,これら「民間説」のほとんどは科学的根拠がないことを話した。実際に認知言語学という本題に入るのは三回目である。

このアンケートの目的は,学生が言語についてどのような知識をもっているか,叉誤解があるとすればどのようなものかを知るためである。さらに,学生が何を知りたいのかをわたしが知るためである。個々の学生の疑問・興味はできるだけ講義のなかに取り込んだ。例えば「日英のことわざに興味がある」と書いた学生がいたので『修辞』の講義で扱った。なかには「自分は・・を知りたいと書いたがいつ扱うのですか?」と直接聞いてくる学生もいた。レポート等を読み学生の潜在能力にはいつも驚かされる。

毎回の講義では,講義録に近いかなり詳細なハンドアウトを配布した。以前は,原書からの引用とキーワードと要点のみのハンドアウトを配布していたが評判が芳しくなかった。一回話しただけでは理解してもらったか不安であるしわたしが言い間違えることもある。学生も復習ができない。黒板の板書は要点にとどめ学生達の顔を見て語りかけるよう務めた。また,講義中にはできるだけ身近な例,例えば街の交通標識を見せて,言語と交通標識はどこが違うか,など質問を投げかけるようにした。

3 今後の課題と対応

前期より後期の講義ハンドアウトの方が自分では完成度が高く進化したつもりであった。ところが前期に比べ後期はあまり活発な意見や質問が出なかった。(優れたレポートは同じくらいの比率であったが。)理想的なハンドアウトとは何かを(理想的な講義は何かも含めて)今後も模索する必要を感じる。レポートの書き方については指針を示したのだが十分に浸透していないものがあった。これも反省点で改良したい。

わたしが見た限り,演習科目と講義科目の学生評価の平均値を比べると演習が講義より高い。これは演習でないと高得点がとれない点検項目が含まれているからではないだろうか。この点何か工夫が必要と思われる。


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