この科目は,1年次の外国人留学生に対する日本での留学生活における導入教育として行われるものであり,現代日本人の価値観や行動規範等の理解を目標としている。単位にはならないが日本人学生の受講も認めており,今回も2名の日本人学生が受講した。
本年度の「日本事情」は特殊な状況下で開講されたことを,まず,記しておきたい。例年,留学生センターの3名(教授1名,助教授2名)の教員が当科目を担当しているが,今回やむをえない事情のため急遽2名で担当することになり,責任者も変更になった。それゆえ,今回の評価はとくに本年度の授業に対するものではなく,むしろ「日本事情」の授業プログラム全体に対するものと受けとめている。しかし,それ以上に,当授業に意欲を持って取り組んだ受講生たちが作り上げた学習空間への評価だと考える。
当科目は,異なる専門分野の教員がそれぞれの立場から,日本の状況を自国のものと比較しながら理解し,自らの意見を持てるようになることを目標に授業を行っている。今回は,歴史(前半)と経営(後半)分野からのアプローチとなったが,形態としては例年通り,講義,討論,ワークショップ,見学等を交えたインタラクティヴな授業を行った。以下は各担当教員の授業内容と工夫等である。
◇日本の歴史と女性(橋 彩)
歴史を学ぶ意義について考え,日本の西洋化・近代化を論じるとともに,日本の女性と家族をめぐる現代的問題を扱っている。歴史学的知見を身近な問題とむすびつけてもらうのがこの授業のねらいである。
講義では,中学,高校で学ぶような日本史の知識や日本の婚姻制度・一般的な家族のすがたを知識やイメージとして共有していない受講者が対象であることを意識し,ビジュアルな授業を心がけている。具体的には,ビデオや図版・文献等を見せ,旧道庁の見学も行っている。
考察の場面では,授業の中で自国での状況を紹介してもらう機会を作り,比較の視点で講義内容をとらえられるようにしている。例えば,日本における選択的夫婦別姓論議の学習に関連して,母国での人の名前の構成を報告してもらい,日本の夫婦の関係性や少子化問題考察への導入としている。
◇日本的経営(ピーター・フィルコラ)
この授業では様々な側面から日本的経営について紹介している。前半は,歴史的,文化的局面から日本的経営が検討され,伝統的経営慣習の特徴が論じられる。後半は,現代の経営とその潮流についての考察である。授業では,国際的な職場への就職を考える学生たちに役立つ知識を提供している。
主なねらいは,(1)日本的経営慣行を理解すること,(2)ビジネスにおける文化的差異の影響を理解すること,(3)自らのキャリアについて考え,計画するよう促すこと,である。
授業では,討論,プレゼンテーション,ケース・スタディ,共同作業を通した学生たちの積極的参加に力を注いでいる。クラスはゼミ形式で行われ,学生たちは自分自身の意見とともに,課題文献について重要なポイントや結果等を議論しあうことにより,能動的に参加することを求められている。