1.本年度のアンケートについて

本学においては、授業内容や教育方法の改善の組織的活動の一環として、平成11年度より毎年学生による「授業アンケート」を全学的に実施し、その結果を公開している。平成15年度までは冊子体の報告書(年次報告書に掲載)が刊行されていたが、平成16年度からホームページ上のみの公表となっている。

今年度の改変点と新たな取り組み

1.「教員からのメッセージ「学生による授業アンケートへの対応について」の公表

平成17年12月に、平成17年度(平成16年度後期及び平成17年度前期)に授業アンケートを実施した教員を対象に、授業アンケートの結果を教員がどのように受け止め、また授業改善に役立てているかを明らかにするための調査を実施した。その回答内容をまとめて平成18年12月に本学ホームページで公表した。本学教員が学生の意見を参考に、担当する授業の改善、カリキュラムや授業方法の見直し、専門教育の質の向上に取り組んでいる様子がよくわかる。

2.新しい設問18の追加

教育改革室からの要望により、18年度前期実施分から学習時間についての設問18「この授業1回(90分)のための予習・復習に費やした時間は平均何時間(何分)ですか?」を新たに加えた。平成18年4月に導入された学士課程の大幅な改革(「平成18年度新教育課程」)において重視されている、単位の実質化に関する情報収集が可能になった。設問18の回答結果は、教育改革室から単位の実質化の文脈の中で公表される予定である。

3.「学部別専門教育の平均値」の集計方法の変更

平成17年度まで、全体集計の「学部別専門教育の平均」は、文〜水産までの12部局に所属する教員が実施した学部専門科目の授業に対する評点を集計したものを用いてきた。しかし、学院・研究院の設置に伴い、学部の教育研究に複数の研究科が関与することが多くなっており(表1参照)、従来の集計方法では表1で下線を引いた部局に所属する教員が担当した授業が含まれない状況が生じてきた。そこで、平成17年度後期実施分のアンケートから、学部専門科目の授業で実施する授業アンケートについては「開講学部コード」の記入を求め、どの学部で開講された授業であるかが把握できるようになった。この結果、18年度(17年度後期・18年度前期)から、「学部別専門教育科目の平均」に学部専門科目のすべてが反映されるようになった。(注)
なお、各教員に通知される「専門教育(当該部局)での位置づけ」については、従来どおり教員所属部局内での順位を表示している。

(注)工学部については、授業評価WGの承認(平成17年8月24日開催)を経て、平成17年度から「全体集計に係る工学部の専門教育平均値」は、工学研究科所属の教員に加え、情報科学研究科所属の教員の数値を含めて算出している。

表1 学部の教育研究に関与する研究科等の一覧
学部 研究科,研究院及び連携研究部 学部 研究科,研究院及び連携研究部
文学 文学研究科 歯学 歯学研究科
教育 教育学研究科 薬学 薬学研究院,先端生命科学研究院
法学 法学研究科,公共政策学連携研究部 工学 工学研究科,情報科学研究科,公共政策学連携研究部
経済 経済学研究科,公共政策学連携研究部 農学 農学研究院,先端生命科学研究院
理学 地球環境科学研究院,理学研究院,先端生命科学研究院 獣医 獣医学研究科
医学 医学研究科,先端生命科学研究院 水産 水産科学研究院

回答結果の概要

■本年度の調査(平成17年度後期および平成18年度前期)は担当教員1,452名中928名が実施し、実施率は63.9%であった。専任教員の実施率は64.4%、非常勤講師の実施率は63.9%であった。開講授業数(1,245)に対する実施率は71.6%であった。強制力を持たないアンケートとしては高い実施率ではあるが、ここ数年、値に大きな変化はない。この制度での可能な上限に到ったものと推測される。実施率を上げるためには、制度的変更が必要であろう。

■総合評価(設問1から設問15までの評定値の平均を指標とする)は、平成11年度の第1回調査から一貫して上昇し、ここ数年はほとんどの部局で平衡に達している。今年度の全体平均は3.78であった。総合評価とその年度間の変動については、部局間で差異が認められる。今年度の総合評価が最も高かったのは文学部専門科目(4.05)で、最も低い薬学部と工学部の専門科目(3.64)との間では0.41の差が見られる。また昨年度と比較して今年度の総合評価が大きく上昇したのは教育学部専門科目(+0.17)と農学部専門科目(+0.13)であった。これらの差異は、分野による授業評価が低くなりがちな科目の偏り、担当教員の入れ替わり、改善の努力など様々な要因が反映した結果と思われる。部局や科目区分ごとに、授業アンケートの回答結果を基礎資料として活用することで、授業改善の手がかりを得る努力が期待される。

■各設問の回答肢の上位2項目(「強くそう思う」と「そう思う」)を合わせた比率も、第1回目調査から徐々に上昇している。表2は、今年度のこの比率を特徴的な授業・科目タイプ別に示したものである。本学の学士課程で行われている授業を全体としてみてみると、学生は非常にまじめに授業に出席しており、70%以上の学生は「教員の熱意が伝わる」授業が行われたと感じている。特に、演習科目や外国語科目については、8割弱の回答者が、教員の話し方は聞きやすく、学生参加を促し、学生に知的な刺激を与え、学習意欲を高める授業が行われている、と良好な評定をしている。
しかし、講義科目については、どの設問も比率は低くなっており、改善の余地が多いことが示された。特に、設問5の「わかりやすさ」についての評定値が目立って低く、専門教育においても全学教育においても、講義を効果的に行うための教員のスキルの向上と教育方法の改善を組織的に行う必要があることが明らかになった。黒板やスライドなどメディア(教育媒体)の活用については調査開始時と比較すると改善はすすんでいるが、より有効な方法を身につけることが期待される。また、講義科目では、設問13「授業の履修目標を達成できた」と設問17「自分はこの授業に積極的に参加した」の回答が50%以下であることにも、注目すべきである。授業の達成感が得にくいと感じ、学習態度の消極的な学生が多数いることは現実である。今年度から単位の実質化への取り組みが本格的になったので、FDなどで、学生の関与・参加を高める手法をさらに広める機会をつくる必要があるだろう。

表2 授業タイプ別「強くそう思う」と「そう思う」を選んだ学生の比率(%)
カテゴリー 設問
番号
内 容 授業形態 科目区分 全体
講義科目 演習科目 外国語科目 専門科目 全学教育
シラバス 1 目標、内容、評価方法を明快に示した 62.0 71.5 70.1 63.4 62.1 63.0
2 授業は体系的に行われた 72.1 78.7 79.8 73.2 72.0 72.8
教員の授業法 3 教員の熱意が伝わってきた 72.8 80.6 83.1 72.7 74.6 73.4
4 教員の話し方は聞き取りやすかった 65.9 77.3 77.3 65.9 68.5 66.9
5 授業は・・・・わかりやすかった 55.2 64.1 68.7 56.0 55.9 55.9
メディア 7 黒板、スライドなどが効果的 58.6 61.3 66.9 60.9 55.2 58.8
作業量・負担 10 進行速度は適切だった 62.5 71.5 74.0 61.7 65.8 63.2
11 レポート等の作業量は適切だった 60.2 64.8 68.4 59.0 63.2 60.5
難易度 12 「C:適切」と回答した学生の% 53.3 53.7 61.3 53.4 54.7 53.9
学生参加 8 教員は効果的に学生参加を促した 50.4 73.9 81.2 50.9 54.8 52.4
9 教員は学生の質問・発言に適切に対応した 62.0 79.8 79.8 62.9 64.5 63.5
学生の満足度・達成度 6 知的に刺激された 59.2 70.5 66.6 61.5 57.7 60.1
13 履修目標を達成できた 49.2 65.8 62.0 49.4 52.5 50.5
14 他分野と関連することを理解できた 56.8 65.4 50.9 62.0 49.9 57.5
15 さらに深く勉強したくなった 56.4 71.0 61.5 59.3 54.7 57.6
学生の出席・態度 16 この授業の出席率(80%と100%の合計) 91.1 94.5 95.8 90.5 92.8 91.3
17 自分はこの授業に積極的に参加した 41.7 66.6 61.1 42.6 45.8 43.8
回答者数(人) 45,592 4,135 5,676 31,421 18,306 49,727

(注)70%以上は黒字、50%以下は赤字で示した。

■ 自由意見は、昨年度と同様、学生が何らかの面で特に優れていると判断している意見が多い授業を抽出し、その意見を紹介することにより、授業を評価する学生の視点や、高い評価を受ける授業の特性を明らかにするよう配慮した。授業名と学生のコメントからだけでは授業の内容が推測できない場合もあるので、シラバスの一部を掲載した。抽出した意見が伝えているのは、学生は教員の総合的授業実行方法(授業への熱意、教育媒体・負担の適正さ)と授業への満足感・授業における達成感を特に重視しているということである。抽出した意見の多くがこれらの点を指摘し、評価していた。

授業アンケートの組織的な教育改善への活用

本学における「学生による授業アンケート」の取り組みは平成5年の試行に始まり、全学規模による実施は8年目を迎えた。この間、ワークショップ型の全学FDが毎年開催されるようになり、授業設計の基礎と参加型授業方法を実践的に学ぶ機会を通じて、本学の教育目標の達成に資する教員集団(ファカルティ)の育成をはかってきた。他方、「授業アンケート」結果のフィードバックにおいては、各教員に部局における相対的な位置を知らせることで、自らの授業の課題などを見つけ、授業を改善する手助けをしてきた。

しかし、学校教育法の2004年の改正により、すべての大学には7年に1度の認証評価を義務付けられ、組織的な教育改善の取り組みが評価の対象となり、学生による「授業アンケート」の役割も新たな段階を迎えている。本学は平成21年度に大学評価・学位授与機構による「大学機関別認証評価」を受ける予定で準備をすすめている。大学評価基準は11項目で構成され、9番目の「教育の質の向上及び改善のためのシステム」においては、大学が学生の意見を的確に聴取し自己点検評価に反映するとともに、【評価結果を教育の質の向上・改善に結びつけ、具体的かつ継続的な方策を講じる】ことが求められている。各大学において、学生による授業アンケート結果を組織的な教育改善に活用するシステムを確立することが喫緊の課題となっている。

「授業アンケート」は教員の自己研鑽の資料としてだけではなく、個々の科目の授業やその担当教員への評価を超えて、学部や大学全体の教育についての学生の評価を示す資料でもある。また、学生の学習態度の実態や授業に対する期待や要望を明らかにするためにも活用することができる。さらに、学科や学部のカリキュラムの有効性を測定するための資料としても使うことも可能であり、大学全体の教育の質や教員の教授能力の向上に必要な方策をたてるための資料としても有用である。学生の視点からみた大学教育の評価を公開し建設的に活用することは、社会に対する大学の説明責任の一部である。

本学においても、授業アンケート結果を個人的な反省・改善の材料とするだけでなく、教育課程・授業内容の改善の組織的な取組に役立てるための取り組みが始まっている。たとえば、水産学部による授業アンケート結果にもとづく専門科目の改善のとりくみ高等教育機能開発総合センターにおける全学教育科目の改善のための授業アンケート結果の利用の促進、などがその例である。授業アンケートの結果に基づく授業改善のため対話の場の広がりを期待したい。


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