本演習は,(主として)法学部2年生が今後,自ら1人で(民)法学を勉強するのに必要とされる基礎を作り上げること,具体的には,@既に学習した事項を復習し,その理解をより確かなものとすること,A判例の読み方を身につけること,B判決や法律文献の検索方法を知ること,C(民)法学における議論の仕方(自分の考えを他人に正確かつ簡潔に伝える方法)を学ぶこと,以上の4点を目的とした。
受講者は,合計13名であった。そこには,他大学からの2年次編入生2名,他学部からの転部生1名,外国人留学生1名が含まれていた。これらの方々には,以前に(日本)民法に触れる機会がなく,それゆえに基礎知識が欠けていた(したがって,上記@が当てはまらない)ため,購読に適した民法の入門書を奨めたり,(希望者につき)個別に面談して,勉強方法のアドヴァイスをしたりするなどした。
以上の本演習の4つの目的を最も効率的に,また確実に達成するために,本演習では以下の2つの手法を採用した。
1 判例研究
第1に,2年生が既にひととおり勉強し終えている或いは現在,勉強している(はずの)民法総則及び物権法(但し,担保物権法を除く。)の分野における重要判例を各回に1つずつ取り上げ,受講生に右判例に関する報告を求め,その報告を基に受講者全員で討論を行った。
具体的には,受講者は4名ないし5名で1つの班に分かれ(4名の班2つ,5名の班1つ),毎回,1つの班が報告を担当する。報告においては,判例につき@事実の概要,A判旨,B判旨のポイント(従来の裁判例及び学説での議論状況との関係など),そしてC当該問題に関する班としての意見を,最大45分間の内に述べる。その後,受講者全員で,当該報告に関する質疑応答を行う。以上のような形で,各回の演習を進めた(以上のような手法,特に報告方法の詳細については,本演習の第1回目の授業において,私からオリエンテーションを行い,また必要な注意を与えた。例えば,@判例を読むときには,第1審,控訴審,上告審の順番で読むこと,A学説の議論状況について調べるには,まず(新版)注釈民法の該当部分を参照すると便宜であること,B必要であれば,学術論文をも参照すること,C文献や判例の「孫引き」は決して行ってはならないこと,など。)。
私の方では,報告内容について講評を加えたり,必要に応じて説明をしたりした他,特に報告や質疑応答のあり方に関して,気が付いたことがあればその都度,アドヴァイスや指示を与えた(例えば,@判旨を紹介する場合には,要約ではなく,原文を引用しなければならない,A学説を整理する際には,その整理の基準(どのような観点から学説を整理したのか,B質問や発言をする際には,まず結論(最も聞きたい,或いは伝えたいこと)を述べ,その後に,なぜそのような質問なり発言なりをするのか,その理由を説明した方が ―その反対に,まず理由を述べる場合よりも― 聞き手には分かりやすい(ことが多い),など)。
2 問題演習
第2に,問題演習を合計2回行った。その具体的な方法は,以下のとおりである。 すなわち,民法総則及び物権法(但し,担保物権法を除く。)に関わる問題を事前に(問題の解説を行う授業の一週間前に)受講生に提示し,各自があらかじめその解答(答案)を作成する。その際には,どのような書物を見てもよく,またいくらでも時間をかけて良いものとする。その後,授業にて,私が当該問題を解説する。さらに,各自の答案を回収し,その答案を私が添削した上で,次回の授業において返却する。その際には,受講生の1人1人に答案の書き方などについて簡単なコメントやアドヴァィスを付する。
また,取り上げた問題は,いずれも旧司法試験にて実際に出題された問題(いわゆる「過去問」)であった。そのようにした理由は,本学の瀬川信久教授によるエクセレント・ティーチャーズ平成17年度報告書にあるとおり,右「過去問」は,2年生が1週間かけてじっくりと取り組むのにちょうど良い分量と難度とである,と思われたためである。
答案からは,学生がそれぞれ大分苦心した様子がありありと伝わってきた。しかし,そうであるからこそ,私の問題解説を良く理解することができたようである。ある学生は,問題解説を聞いた後,「この度提出する私の答案では,問題の分析が不十分,不正確であることがよく分かった。ついては,今回の問題解説を踏まえて,もう一度,自分で答案を作成して提出したい。」と申し出て,実際にその一週間後,以前のものと比べると見違えるほど良くできた答案を提出した(そのような申し出を受けたことが,本演習に関する私の最も嬉しい思い出の1つである。)。
以上の他,私が特に気をつけたことは,@授業では,私が発言する時間を極力減らし,学生の意見を良く聴くよう心がけること(だが,これは本当に難しい。省みて,私が「しゃべりすぎる」こともしばしばであった,と反省している。)A学生の質問に答えるために,十分な時間をとること(授業終了後,45分ほど,複数の学生から質問を受けたこともあった。これらは,本来,授業中に解消されるべきものであったが,本演習直後に別の授業に出席しなければならない学生も多くいたため,授業時間が90分を超えぬようにせざるを得なかった。),B(民)法学の勉強方法などにつき書かれた学生向けの本や記事などを,できる限り多く紹介すること,である。
本演習は,私が大学教員として初めて担当した授業であった。そのため,何をどうすれば良いかも皆目分からず,(辛い)試行錯誤の日々を過ごした。この度,受講生から思いもよらぬ高い評価を得て,大変に驚くとともに,素直に喜んでいる。
拙い授業に最後までおつきあい頂いた皆さん,そして様々なアドヴァイスを頂戴した諸先生方に,心よりお礼を申しあげる。また,「今回はビギナーズ・ラックであった。」と言われぬよう,今後とも努力を重ねたい。