授業科目名は「フランス語学」となっているが,実際にはフランス語が属するロマンス諸語の一つであるスペイン語の文法を学ぶのが本授業の目的である。この点についてはシラバスに明記してあるので,戸惑った学生はいなかったようである。受講者にはスペイン語を全学教育で既に学んでいた者もいたが,大多数はスペイン語未習者であった。全学教育科目のスペイン語との差別化を図るため,文学部の専門教育科目として文章を読むために必要な文法事項の習得に特化した。一部の回答にも見られたが,進度はかなり速めであり,ついてきた学生諸君のたゆまぬ努力には敬意を表したい。文章を実際に読む後期の授業を続けて履修してくれた学生の数が,予想を上回ったことも嬉しい誤算であった。
私自身は極めてオーソドックスな,いわばかわり映えのしない語学の授業を行ったと思っているので,授業評価が高かったことには驚いている。学生の学習を促進するための工夫と言えそうなものは,以下の通りである。
第1点として,全ての受講者の氏名を記したカードを作成し,トランプのようにランダムに指名するというやり方を採用した。席順であてると緊張感が生まれないと考えたからである。これは今回初めて取り入れた方法である。このやり方は刺激になるのでこれからも是非続けてほしいという意見が回答にあったので,今後も採用するつもりである。特に,この指名方法によってスペイン語学習において難物である動詞の活用を執拗に反復させた。この方式は文法習得に効果的であると同時に,学生に学習の達成感を与えたかもしれない。比較的小規模の授業では,学生をもれなく平等に指名することが基本ではないだろうか。
第2点として,日常的な復習と学期末の総括的な学習の両方を学生に促すために,数回の小テストを行った上で期末試験を実施するという評価方法を用いた。これにより,学生の授業全体に対する取り組みを成績に反映させることができたと言えよう。語学の授業では,小テストと期末試験の組み合わせによる評価が極めて有効であると実感した。
第3点として,毎回学習した文法事項についての少なからぬ練習問題とその和訳を宿題として課し,添削して返却した。ほとんどの学生が全ての課題を提出し,その成果が試験結果にも現れていたと思う。ちなみに受講者が18名いて(決して楽ではない)期末試験の平均点が8割を優に超えるという高水準は今回が初めてである。
課題が少ない授業や先生が面白いお話を披露する授業ばかりが評価が高いというのは,北大では全く当てはまらないようである。北大生は自らを知的に向上させようとする意欲が極めて高いということが,今回のアンケート結果で改めて示されたように思う。特に,「文法を体系的に理解できた」と書いた学生が複数いたことは注目に値しよう。外国語文法の習得のように,物事を体系的に把握することは手間がかかり忍耐力を要するものであるが,この授業を受けた学生はその面白さと意義を明確に認識できているのである。
今回私が授業評価の上位者に選ばれたのは,私の教育方法がどうこうよりも,授業を受けてくれた学生の極めて高い質のおかげであると改めて感じている。逆に言えば,我々教師はこのような意識の高い学生諸君を相手に授業をするのであるから,それに見合うだけの準備と覚悟が求められるということになる。熱意が伝わるかという項目はいつも気になるものであるが,今回は全ての受講生が熱意を感じてくれたということで,これだけでも教師冥利に尽きるというものである。