この授業は応用倫理学に関する入門講義である。受講生として想定していたのは、応用倫理学を専門とすることのない2−3年生で、思想系でない学生にも理解しやすいものにすることを心がけた。内容としては生命倫理(インフォームドコンセント・尊厳死・脳死臓器移植・生殖クローン等)、環境倫理(世代間倫理・環境的正義・保全と保存)、科学技術倫理(スペースシャトル爆発事故・科学者の社会的責任・遺伝子組換え農作物)、企業倫理等、応用倫理学の分野で議論されることの多い諸問題をとりあげた。また応用倫理学で用いられる基礎概念(自己決定権・効用・正義・リスク・プライバシー権等)を理解させることを授業の目標にした。
講義でパワーポイントを使うと、学生が寝てしまったり、注意がとぎれることが多いようなので、講義では板書を学生に書き取らせる形にすることが多いのだが、この講義ではあえて実験的にパワーポイントを使うことにした。ただしスライドは配付資料として、授業時に配布した。学生はパワーポイントのスライドを見ながら授業を聞き、各自プリントにメモを書き込んでいた。パワーポイントを用いたことで、一時間あたりの情報量を増やすことができた(内容的には駆け足になってしまったが)。
出席の動機付けについては、ティーチングアシスタントに受講票をつくってもらい、それを毎回配布して出席をとることにしている。また、質問や意見・感想がある場合はその受講票の裏に記入してもらい、次回の授業の最初にその質問に答えたり、いくつかの感想を読み上げたりしている。また授業中に何回かは教室全体に質問するようにした。「生殖クローン技術を刑法で規制するべきだとみなさんも思いますか」「みなさんは朝永振一郎の名前を知っていますか」というように。何人かにそれらの質問に答えてもらい、授業中の緊張感を持続させるようにした。
また授業後1−2人に授業の感想を聞くようにした(できるだけ倫理学を専門にしない学生の感想を聞くようにした)。TAにも講義の改善点などを指摘してもらうようにした。
成績評価については授業で扱ったテーマをもとに課題を10題弱ならべ、その中から一問を選んで2000字程度で書かせるというレポートを二回課し、一回目については簡単なコメントをつけた上で学生に返却した。
実はこの講義はかなり安直な講義だった。他の研究科や他大学、全学教育の総合科目等での単発の講義で使ったスライドがかなりたまってきたので、それらを修整して並べた上で学部生向け専門科目の入門講義にしたのである。自分としては情報多すぎ(授業が何回か延長し、学生から文句がきた)、テーマ散漫、自分の趣味に走りすぎという印象をもっていた(当然エクセレントティーチャー入りなどは全く期待していなかった。われながらこんな文章を書いているのもおこがましい)。予想外の高い評価が得られた理由としては、現代的なテーマを扱ったことが考えられるが、他の理由として考えられることは以下のとおりである。