基礎有機化学Iは薬学部1年生後期に開講されている専門必修科目で,平成18年度より新たに開講された講義です。ヒトをはじめとする生命体は有機物質によって構成されており,また生体内で起こる殆ど全ての現象は有機物質によって引き起こされています。従って生命科学を理解する上で有機化学は不可欠な学問であるとの考えから,薬学部では,多くの有機化学の講義が開講されています。この講義は,その導入部として位置づけられており,有機化学の基礎知識と概念の習得を目的としています。
(1) 本講義の内容は,主にアルカン・アルケン・アルキンと芳香族の化学であり,この点から"高校の有機化学"から"大学の有機化学"への橋渡しということを授業全般に渡って意識しました。従って,「これくらいのことは知っていて当然」という考えを封じて,まず学生が高校で学習した知識を呼び起こし,その上で新しい概念や考え方を上書きさせるように努めました。
(2) 今の講義室は映像機器が充実していますが,私の講義では板書を基本としました。パワーポイントやOHPは見た目が美しく分かったような気になりますが,自らペンを取り,私のコメントなどをメモするなどしない限り,その記憶はあっというまに消えてしまいます。有機化学は,化合物の構造式や考え方を自分の手で書くことによって更に理解が深まると考えており,数枚のプリントを配布した以外は板書を徹底しました。但し,学生が効果的に復習できるように板書内容には,私のコメントを追加したり,テキスト中の関連事項のページを示すなどの工夫をしました。
(3) 講義において最も重要なことは如何に学生をこちらに引き込むかということだと思います。幸い私は声が大きく,また良く通るそうで,それが高評価の一因になっていると思いますが,それとは別に1)学生と出来るだけ視線を合わせる,2)学生を講義に参加させる,3)話にメリハリをつけるという3点を心がけました。いざ演壇に立ってみると学生の講義への参加状態というのが手に取るように分かります。私語に関しては注意をするものの学生全員に「こちらに集中せよ」,といってもなかなかそのようにはなりません。また講義をする側もこちらの話を一生懸命に聞いてくれている学生に視線を合わせがちになりますが,少しでも多くの学生と視線を合わせるようにしました。また講義中に学生に質問を投げかけ,それに対して発言を求めるようにしました。メリハリという点に関しては話し方に大きく依存すると思いますが,それ以外では自分が学習した内容が自然現象とどのように関わっているのかなどの話しを入れるなどの工夫をしました。
(4) 講義内容を知識として植え付けるためには,学生に再度自分で考えさせ,それを自分の言葉で説明できるようにさせなければいけません。講義の終わりの10分程度を使ってその日の復習問題を行ないました。またその解答をみて,理解が甘いと感じた点は,次回にもう一度解説を行なうようにしました。
今回このような評価を受けたことを嬉しく思います。しかし私が上で述べたことは,多くの先生方も実践されていることだと思います。今回の結果は,「教員の熱意が伝わってきた」,「教員の話し方は聞き取り易かった」の項目で特に高い評価を受けたことが一因と考えています。「授業により知的に刺激され,さらに深く勉強したくなった」の項目でも同等の評価を受けるように,今後さらに努力していきたいと考えています。