オピニオン Opinion
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Life is fate and luck!
-----人生は縁と運-----

 今年も、「大吉」を引き当てた*1

 毎年、「大吉」を引き当てる強運の総長を選考したこの大学の選考会議は、偶然とは言え、結果として慧眼であったのかもしれない。毎年、大吉を引き当てる「強運」だけが取柄の総長というのも、どうか? と思うが、「運」がないよりはましだ。
 しかし、勝負事は勝ち負けがある。なかでも、賭け事は「負けて当然、勝って偶然」の世界。「強運」といっても、こと競馬に関して言えば、過去50年間で負け越しである。

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 50年前、馬券買いを教えてくれたのは、Kさんだった。大学1年で同じクラスになった10歳年上の関西出身のKさんは、すでに地元の大学の工学部を卒業して、医学部に再入学していた。大学1年次で、10歳も年長ともなれば、年の離れた兄弟、あるいは、見様によっては親子に見えてもおかしくない。明確な上下関係、師弟関係が入学時からあった。
 生半可な血統の知識を木っ端みじんにされたことが縁で、僕と同じく頭でっかちの競馬ファンだったYは、Kさんの子分となった。
 Kさんは、最初に出会った時から、すでにギャンブラーの風格を備えていた。ちびた赤鉛筆を右の耳にはさんで、パドックを周回する馬に鋭い視線を送る姿は、本当に決まっていた。医者にするには、勿体ないとつくづく思った。
 競馬に関して、血統のこと以外は全てKさんに一から十まで教わった。馬券買いの作法、パドックの見方、その日の騎手の調子、厩舎や馬主のこと、ゲン担ぎのこと。
 およそ、競馬にハマった人間であれば説明は不要であるが、全レースで馬券を狙うには並々ならぬ体力と気力が必要である。前日には詳細なデータ分析が必要で、夕方から早朝まで予想に費やす。中央競馬の札幌開催の前日は、Yと一緒にKさんの下宿に泊まり込んだ。
 「ホーキン、Y、競馬は、こうして『縁』と『運』を作るんだ。精魂賭けて研究した奴にだけ、ようやく『縁』も『運』も巡ってくるんだなぁ」と理解不能な説諭を受けた。
 Kさんは、競馬新聞も鉛筆も買わない。競馬場に行けば、新聞や赤鉛筆などいたるところに散らばって落ちていた。さらに、ゴミ箱をチョット探せば、何種類もの競馬新聞をゲットできた。
 「ホーキン、Y・・・、ゴミ箱に手を突っ込む勇気があれば、人生大抵のことは何とかなるぞ」という名言をKさんから学んだ。小心者の僕は、その後の人生で、ついぞKさんのこの言葉を実行することはなかった。
 競馬場では、同じく競馬初心者のYと僕は、Kさんの手下であり、使い走りだった。Kさんは、パドックで頭脳と勘を駆使する。発売終了ギリギリで、Kさんからの指令が出る。
 「ホーキン! 6番の単勝と2番、8番、12番への流しだ!」
 「Y! 1番、3番、5番の3点買いだ!」
 僕とYは、締め切り直前の馬券発売所に駆け込む。このサイクルが半日続く。こうして最初のレースから始まって、最終の12レースが終わる頃には、Kさんも僕らも心身ともにヘトヘトになって、夕暮れを迎える。
 何より、Kさんの競馬は「運」を大切にしていた。「ホーキン、Y、大きな勝負の前に、勝ちたければ絶対にトイレに行くなよ」と教わった。「」を落としてならないという実に馬鹿げたゲン担ぎであるが、厳命であった。
 度重なる合宿の甲斐あって、チームKは、その年(昭和48年)の暮れの有馬記念で、ハイセイコーに人気が集中した中、10番人気のストロングエイトの勝利を読み切り、単勝で42倍の馬券を勝ち取った。

 以来、「縁」(fate)と「運」(luck)は何より大切にしてきた。

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 師走の東京銀座。
 場外馬券売り場(WINS)は有馬記念の馬券発売でごった返していた。WINS銀座は、ハリー・ウィンストン、ヴァンクリーフ&アーペルなど、庶民にはあまり縁のない超高級路面店の目と鼻の先にある。しかし、WINSの一角だけは、立ち食い蕎麦屋、カレー店などが肩を寄せ合っている。およそ銀座には似合わない、ギャンブラーの聖地である。
 年の瀬のWINS、一縷の望みに賭けた庶民の数多の情念が渦巻いて、熱気をはらんでいた。三密などどこ吹く風と、目が血走った老若男女で溢れんばかりの混雑であった。「強運」の総長が、一点買いをしたエピファネイア産駒のアリストテレス号は、道中、全く見せ場を作ることもなく、最後の直線ではズルズルと後退し、惨敗した。
 馬券を買い始めて50年間、そこそこの勝ち負けで帳尻を合わせてきた有馬記念だったが、歴史的な敗北となった。いよいよ競馬運からも見放された。

 負けに不思議の負けなし。昨年の有馬記念は、負けて当然の反省すべき点が多々ある。競馬に関わる者として、あるまじき怠惰が原因であることは承知している。言い訳はいくらもあるが、結局のところ、集中力の欠如、事前データの収集不足の状態だった。おまけに、馬券を買う前に、トイレに行ってしまった。
 これでは、集中力とデータに寄り添ってくる「縁」も寄ってくるはずもない。そして、大切な「」は不覚にも銀座に落としてしまった。
 Kさんが生きていれば、さぞかし怒ったことだろう。

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 大学も今年は勝負の年である。強運の学長を選んだこの大学の期待に応える正念場である。Kさんの薫陶に応えて、緩むことなく「縁」を集め、「運」を引き寄せなければ。

 冒頭、今年も「大吉」と申し上げた。
 僭越ながら、北海道大学を代表して私費を投じ、一本300円とおみくじにしては高額なものを選んだ。
 おみくじ専門家的には、大吉の中にも、3つのグレードがあることが知られている*1。ほとんど、末吉に近いもの(D3クラス)から、開いた瞬間、もう舞い上がって、悦びのあまりその場で卒倒しそうな超大吉(D1クラス)まで存在する。今年、私が引いた大吉は、ダントツトップの超大吉(D1)であった。これは、正直、スゴイ!
 曰く(原文ママ)、「大いなる幸運の時。この時期、意欲的に人の繋がりの広がりや新しい知識、技術などを開拓すると良し。身につけたものは全て財となり、将来に大きな役割果たす。心を大きく持ってことに処すれば、さらに信頼と人望は高まること必至。王者の風格があれば、なお、良し!」ときた。
 いやはや、参った。「」とまで持ち上げて、どうする気だ。しかし、それは私の性格や外見上、無理。皆様、浮かれることなく気を引き締めて、この厳しい一年のスタートを切りましょう。何だか、今年の有馬記念では、とんでもないオッズの馬券を当てる予感がしてきた。

 今年も、総長コラム、引き続きご愛読お願い申し上げます。