インタビュー

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ユーシービージャパン株式会社代表取締役社長 菊池 加奈子さん(1985年 薬学部卒業)

手に職をつけようと
薬剤師を目指し
表情豊かな
憧れのキャンパスへ

北海道の最高学府といえば北大ですので、進学も北大以外は考えず、北大一本に絞って受験しました。北大の近くにある札幌北高校に通っていたこともあり、高校時代から広大なキャンパスに憧れがあったことも理由の一つですね。薬学部を選んだのは、子どもの頃から家族で「女性は将来的に手に職をつけた方がいい」と話していたので、女性も活躍している薬剤師を目指そうと考えたのがきっかけでした。

北大のキャンパスは開拓時代からの歴史的な建造物が点在し、その場所場所でさまざまな表情を見せてくれるところが魅力。なかでも、薬学部の前のイチョウ並木が鮮やかな黄色に染まる秋の風景は今でも目に焼き付いています。そんな美しいキャンパスで大学生活を送れたということは本当に幸せだったと実感しています。

恵迪寮の二階の窓から寮生たちが雪山を目がけて飛び降りるジャンプ大会も衝撃的でした(笑)

卒業後は北海道大学機器分析センター(現・北海道大学創成研究機構グローバルファシリティセンター)の非常勤職員として、機器分析によって北大の研究者のサポートをする仕事をしていました。任期終了後はアメリカに語学留学し、英語を学びながら当時夢中だったバレエのレッスンを受けるという自由気ままな生活を送り、帰国後は英語講師などをして働いていました。実は20代までは製薬業界とは無縁で、初めて製薬会社に就職したのは30歳直前のことなのです。

最初に就職したのは外資系の製薬会社「マリオン・メレル・ダウ」の札幌支店で、管理薬剤師兼学術として入社しましたが、日々の業務は当初はお茶汲みや電話番などでした。同僚とも仲良くそれはそれで楽しく仕事をしていたのですが、ある時、本社の上層部の方々とお話しする機会があり、「製薬会社で働く以上はもう少し薬学の知識を活かしたい」と何気なく伝えたところ、「新製品のプロダクトマネージャーをやってほしい」と大阪本社への人事異動の打診がありまして。まさに青天の霹靂でしたが、何事も差し出されたことはついやってしまう性分なので、思い切って挑戦することに。それが現在に至る大きな転機となりました。

30歳直前の
人事異動が転機
外資系製薬メーカー
では数少ない女性社長に

現在はベルギーの製薬会社「UCB S.A.,」の日本法人の社長に就任し、仕事の幅は多岐に渡りますが主軸は二つです。本社が決める大きなグローバル戦略において、日本側の意向や事情などを伝え、それらをグローバル戦略に反映してもらうよう交渉をすること。もう一つは、グローバルな決まり事が日本へ落ちてきた時、それをできる限り日本の市場に合った形にアジャストすることです。

若い頃は目の前の仕事をやり遂げること自体が喜びで、ステップアップすることでどんどん見える景色が変わっていくことが楽しく、モチベーションになっていたのですが、今は私がサポートすることによって、社員たちが何かを達成できたり、成長できたりする姿を見守ることが一番の喜びとなっています。

仕事ではあらゆる場面で自分の思い通りにならないことに直面します。だからこそ私は「与えられた環境でベストを尽くす」という気持ちを常に持ち続けています。そして、雑な仕事をしないこと。きっちり詰めた仕事をすることは、若い頃から今もずっと心掛けてきたことです。

ずっと外資系の会社で働いてきたので、今後はもっと日本に貢献したいと考えています。とりわけ社会における女性活躍はまだまだやるべきことが多いと思いますので、自分の経験を活かし、積極的に取り組みたい課題の一つです。「ユーシービー」はベルギーの会社なのですが、現在のベルギー大使が女性の方で、日本での女性活躍の推進・サポートに尽力されており、私もさまざまなイベントにお声掛けいただいています。

ユーシービージャパンとしては、今後ますます製薬会社という立場からサステナビリティの推進活動を高めていきたいと考えています。

ずっと私を
支えてくれたのは
北大で育んだ
フロンティア精神

北大の薬学部で同じ講座だった同期とは今も連絡を取り合う間柄。一昨年、薬学部の同窓会で講演をさせていただいた時には30名ほどが集まってくれて、講演会の後には同期会を開きました。製薬業界にも理学部や獣医学部の先輩たちがいらっしゃって、たまに食事会にお誘いいただくのですが、いつも北大の思い出話で盛り上がり、いい関係を築かせていただいております。

私が学生の時と今では世の中が大きく変化しています。不安要素が多く複雑性も増しているこの時代を生き抜くには、レジリエンス=折れない心をしっかりと持って社会へ出ることが大切。そのためには大学時代にこそ、何事にも挑戦して、失敗しても「さあ、また次!」と挑戦と失敗を繰り返すことによって強い自分を形成できるのではないでしょうか。

今振り返ると、私の中に根付いているフロンティア精神は、北大で学ぶことによって自然と芽生えたものなのだと感じることがあります。私はビジネス界で「女性初の○○」という冠を掲げられることが多く、苦労もありますが、その第一歩を自分が踏み出すことによって後進の役に立つことができればいいなと思っています。そう考えることができるのも、幾多の壁を乗り越えられたのも、北大で育まれたフロンティア精神のおかげ。北大は今も“帰る場所”であり、私にとって大きな誇りです。

受験生のみなさんには、一度、実際に北大のキャンパスを歩き、雰囲気を肌で感じてみてほしいですね。心を解放して新しいアイデアを生み出すには絶好の環境だと思います。

ユーシービージャパン株式会社代表取締役社長 菊池 加奈子さん(1985年 薬学部卒業)
ユーシービージャパン株式会社 代表取締役社長
菊池 加奈子さん
(1985年 薬学部卒業)
1962年北海道森町生まれ。マリオン・メレル・ダウを皮切りにボシュロム・ジャパン、ボシュ&ロム・インコーポレーテッド、ノバルティスファーマを経て、2013年グラクソ・スミスクライン入社。常務取締役(経営戦略・マーケティング・マルチチャネル担当)などを務めた後、2017年4月同社代表取締役社長。2018年5月ユーシービージャパン入社。同社代表取締役に就任(現職)。外資系製薬メーカーでは数少ない女性社長として精力的に活動する傍ら、女性活躍の推進にも強い関心を持つ。