インタビュー

ホーム > 北大人群像 > 平 知子さん

独立行政法人国際協力機構 JICA九州 市民参加協力課長 平 知子さん

動物を守るという
仕事を夢見て
国立大学で唯一の
北大獣医学部へ

医者をしている親族がいて、もともと医学には身近な感覚がありました。一方、子どもの頃、実家でネコを飼っていたことから、動物に興味を持ち、やがて「動物たちを守れる職業に就きたい」と考え、中学生の頃から獣医を目指していました。大学受験当時、全国各地のいくつかの国立大学に獣医学科があり、私が暮らす福岡から近い鹿児島や宮崎、山口にも獣医学科がありました。しかし、国立大学で唯一、獣医学部があるのが北大で、さらに北海道の自然や野生動物の豊かさに惹かれたこともあり、北大の獣医学部を志望しました。

福岡で暮らしていたので、北海道はとても遠い存在で、周囲にも北海道に行ったことがあるという人はほとんどおらず情報が少なく、テレビ番組のムツゴロウさんの「動物王国」のような世界、大自然、雪国といった限られたイメージしか持ち合わせていませんでした。北大にはクラーク博士の「Boys be ambitious」という有名なメッセージから開拓者精神が旺盛な校風があるのかなと想像し、私もぜひその中でチャレンジしてみたいと思いました。実際に入学すると、自然豊かな広大なキャンパスにリスが駆け回っていたり…。それまでに抱いてきたイメージに応えてくれる大学でした。

入学後にまず感じたことは、南は沖縄から北は北海道まで全国各地から学生たちが集まってきていたので、とても多様性に富んだ大学だということ。教養部の1年半の間は、できる限りさまざまな人と巡り合って、多くの経験を積みたいと考えていたので、北大の障がい者支援のサークルに入ったり、友人たちと夜通し語り合ったり、サマーキャンプや藻岩山のナイトハイクに出掛けるなど、家に一人で居るのがもったいない!と積極的にいろいろな場へ参加していました。

獣医学部では外科学講座を選択し、馬の炎症急性期における血漿タンパク質の変動に関する研究に取り組みながら、午前は大学病院で診察を、午後は手術の片づけや入院の患畜の世話をしたり、研究データを収集・分析したりと多忙な日々を送っていました。将来的に野生動物に関わる仕事にも関心があり、もともと留学にも興味があったので、卒業後はアメリカのコロラド州立大学の生命科学部野生生物学科へ大学院生として留学しました。担当教授の研究テーマが「抗コリン系広域殺虫剤の環境影響評価」で、野生のイヌワシ、チョウゲンボウの2種類の猛禽類を対象に実験を行い、生態学的・血液生化学的変化を通じて野生動物に与える影響について調べる研究をしており、教授に付いて2年間、実験・研究のお手伝いをしました。

アメリカ留学後、
JICAへ入団し
国際協力の
最前線で活躍

大学院を卒業し帰国後は野生動物に関わる仕事も探したのですが、残念ながら求人がなく、別の道を模索することに…。そこで選んだのが現在も働いているJICA(国際協力事業団(現独立行政法人国際協力機構))でした。北大の獣医学部ではJICAのプロジェクトとしてザンビアで獣医学部の設立協力を行っており、卒業後JICAが派遣する青年海外協力隊に参加する人もいたので、もともとJICAを身近に感じていたこと、国際的な仕事を行いたいという思いから入団を決意しました。

JICAでは約3年ごとに人事異動があり、最初の3年間は農業開発関連の部署でザンビアの獣医学部の設立支援プロジェクトをはじめ、マレーシアやモンゴルの獣医学分野の技術協力案件の形成、実施中のモニタリングなども行っていました。次の3年間は環境、ジェンダー、貧困削減、障がい者支援といったセクターを横断的に見る環境・女性課へ配属され、複数のイシューを担当する中で、障がい者支援の分野ではプロジェクトの形成の支援や、障がい者の方を日本に受け入れるために必要な配慮事項の検討、センターのバリアフリー化への取り組みなどを手掛けました。その後は、中米のホンジュラス事務所、本部の国内事業部、ケニア事務所、本部の生物多様性保全に関わる地球環境部、獣医・畜産に関わる農村開発部と国内外を行き来しながら、さまざまな分野の事業に携わってきました。

ホンジュラス事務所は初めての海外赴任でしたので、日本の常識がその国では常識ではないということを改めて痛感しました。「蛇口をひねれば24時間飲める水が出る」といった日本では当たり前の環境が現地にはありませんが、現地の方はその状態を受け入れて、それに合わせて工夫して生活している。そんな姿を見て、自分の価値観を見直す貴重な機会を得ることができました。また、部署が変わる度に新たな知見、ネットワークを深めることができ、自分の引き出しを増やせてこられたと思います。

2019年からは現職のJICA九州の市民参加協力課長に着任。今は国際協力をはじめ、2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)について市民や学生のみなさんに理解していただき、自分ごととして行動につなげていただく活動を行っています。

私たちの仕事は途上国の人々の生活の向上、さまざまな問題の解決を目指して取り組んでいるものです。特に在外事務所にいる時や出張などで現地に行く時に、現地の問題が解決され生活が改善し、人々の笑顔が見れると、これまでの努力が成果として表れているんだと実感でき、やりがいを感じると同時に、次への原動力にもつながっています。

仕事をする上で大切にしていることは、元JICA理事長の緒方貞子さんの言葉でもある「現場主義」。「現場が何を必要としているか」という視点を第一に考え、それに基づき検討された国際協力の事業を実施していくこと、現場で必要とされている支援を必要とされているスピード感を持って提供していくことを常に心掛けています。

自分の基盤を
構築するためにも
大学時代は何事にも
チャレンジを!

北大は多様な学生がそれぞれの志を持って集まっている大学です。私自身も北大の6年間でさまざまな出会いを通して多くの刺激を受け、自分の基礎を構築できたと思っています。JICAでは多岐に渡る分野に携わってきましたが、そんな大学時代の経験がとても糧になったと実感しています。獣医学の専門知識はもちろん、サークル活動での障がい者支援、青少年科学館やユースホステル協会での教育活動など学外での取り組みを通じ、いろいろな分野の方々とコミュニケーションを取り、知見を蓄積しながら、バランスのある考え方を培うことができたからです。JICAの仕事は他分野との円滑な連携が不可欠です。例えば、獣医学部の学生に適切な教育を行う協力においても、前提としてその学生に大学に通える生活基盤がないと成果につながらないので、そのためには国の貧困に対する協力が必要ですし、高等教育につながる基礎教育を機能させることも重要です。専門分野に限らず、他分野の経験や知識を活かしながら、総合的かつ有効な協力体制を整え、結果的に本題のプロジェクトの効果を高める――。北大での経験は、さまざまなプロジェクトを推進する上で、思想や行動などの基盤となっていたように思います。

昨今の学生は“内向き志向”と言われる傾向があり、JICAの協力隊事業でも応募者数が年々減少しています。ぜひ世界のことに関心を持ち、世の中で何が起きているのかを知ってほしいですね。他の国で起こっていることは決して自分と無関係ではなく、いろいろな形で日本ともつながっていますし、それぞれの方の生活にもつながっている自分ごととして理解していただきたいと思っています。

北大は私にとって「社会へ出る前に何事も自由にチャレンジできた場」でした。社会人になるとさまざまな制約が生まれますが、興味あることに思い切り飛び込めるのは、まさに“学生の特権”です。どんどんチャレンジして自分の知見・経験を広めてください。

独立行政法人国際協力機構 JICA九州 市民参加協力課長 平 知子さん
独立行政法人国際協力機構 JICA九州 市民参加協力課長
平 知子さん
(1991年 獣医学部卒業)
1966年福岡県生まれ。大学卒業後、留学を経て1995年国際協力事業団入団。農業開発関連、障がい者支援、ジェンダー分野、自然環境保全といったさまざまな部署やホンジュラス、ケニアでの勤務を経て2019年9月にJICA九州市民参加協力課長に着任(現職)。これまで得た幅広い知見・経験と獣医学の専門性を生かし,国際協力の最前線で活躍中。