エルム街の偉人たち

 


文化を伝達する高木さん
南陽堂書店 店主
 
高 木 陽 一(たかぎ・よういち)さん


  「古本屋」と聞くとすぐに頭に浮かぶのが東京・神田の古本屋街。言わずと知れた学生街でもある。昔から学生街に欠かせぬ存在なのが,「喫茶店」「麻雀荘」とともに「古本屋」であった。その三点セットも徐々に影が薄くなる昨今ではあるが,ここエルム街に店を構える古書店は,東京以北では最多だとか。
  中でも北8西5にある「南陽堂書店」は創業68年の最も歴史ある店である。創業者の高木庄蔵さん(故人)は古本の行商をしながら苦労して店を出し,南米に夢を描いていた事から屋号を「南陽」とした。庄蔵さんは,当時道立図書館の初代職員だった奥さんと知り合った事,「婿入り」して「高木」姓を名乗る前は,「本田」姓だったことなど,よくよく「本」に縁があったのだろう。
 創業間もなく生まれた息子さんが,現在,店を営む陽一さん。「子どもの頃?当時の一般的な家庭は5・6人の兄弟が当たり前だったから,店の回りだけでも子どもたちがたくさんいて,いつも一緒に遊んでいたね。道路一つ挟めば他の子どもたちの縄張になっていたから,敵地に行くようなものだったよ」(笑)
  陽一さんは,若い頃は今の細身の姿からは想像もつかない巨漢で95s位はあったとか。店を手伝い始めた頃から柔道を習い始め,北大の武道場等で学生ともよく稽古をしたそうだ。
 「古書店」の経営は何と言っても知識と経験そしてカンが大事。学術専門書が中心のため,神田の競り市に仕入れに行くことも多く,月に一度の地元の競りも欠かせない。「背取り」と言って,背表紙を見ただけで入札できるまでになるには並々ならぬ修業が必要だ。 陽一さんの修業は10年近く続き,昭和32年から二代目として店を継いだ。それまで一緒に手伝っていた弟さんも同時期に独立し,現在もエルム街(弘南堂,北12西4)でお兄さんとともに切磋琢磨し,街を盛り上げている。
  「南陽堂」には,「北斎漫画」や江戸中期の「絵手本」,「百人一首絵札」などちょっと辺りを見回しただけで,素人が触れたら怒られそうな貴重な品がたくさん。また,土地柄「蝦夷」や「アイヌ民族」関係など北方資料も豊富で,過去には「蝦夷ケ島奇観」という希少な本も扱った。昔は「古書マニア」の学生が日に三度も入りびたったり,先生がたが来てくれて先代や陽一さんとよく話し込んでいった。最近は図書館が充実したからなのか,学生の活字離れからか,客数は減っているようだ。
  陽一さんは,古き良き物に何でも興味があり,古銭,切手,書画などの鑑定は卓越している。テレビで「〇〇鑑定団」という鑑定番組が人気だが,陽一さんも楽しみにしている。「言い仕事してますね」でお馴染の鑑定家など昔からの仲間たちが多く出演しているそうだ。そう言えば,陽一さんの声は番組に登場する長老の鑑定家の声にそっくりだ。
  時代の流れもあってエルム街の古くからの店では,後継者に悩む店も多いが,「南陽堂」は現在息子さんが修業中。「元来,息子というものは親と同じ事はしたくないもの」だそうで,息子さんは古書の中でも自然科学分野に興味があり,中でも「昆虫」に力を入れている。今では,古書目録を見て,全国から注文が来るほどになった。三代目の襲名が近いですね? 鑑定家の鋭い目がちょっとほころんだ。
(夢 一夜) 
参考リンク:札幌古書店組合


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