センター概要

設立の経緯と目的

 脳と心の疾患には、老年期に発症するアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患、青壮年期でみられるうつ病や統合失調症などの精神疾患、小児期に問題となる自閉症や注意欠如・多動症といった発達障害など様々なものがあり、治療の困難さから大きな社会問題となっています。

 中でも、近年増加傾向にある発達期における諸問題の解決は、早期診断や障害への介入のみならず、学校教育の観点からも重要です。また、現在死因の第4位を占めている脳血管障害は、回復後も生活が大きく制限され、しばしば長期にわたるリハビリテーションが必要になります。

 さらに、超高齢化社会を迎えた我が国では、老化による脳機能や学習能力の低下への対策が重要な課題となっています。

 一方、脳と心のメカニズムを解明するためには既存の研究体制のみでは不十分で、生命科学を基盤とした神経科学と人文・社会科学を基盤とした心理学、さらには数理科学に基づいた情報科学を融合した新しい研究形態が必要です。

 また、当該分野を持続的に発展させるためには、これら複数分野の研究を俯瞰できる広い学識をもった人材を育成する必要があります。

 このため、本学ではこれまで、総長裁量経費や文部科学省の支援を受けて部局の枠を越えたプロジェクトを推進してきました。2003年(平成15年)には、理系(医学、薬学、保健科学、理学、工学、情報科学)と文系(心理学、教育学、言語学)の研究者が参加して分野融合的な研究を推進する脳科学研究教育センターを設立し、センターの下に発達脳科学専攻を設置しました。

 2023年(令和5年)度からは脳科学専攻と改称し、若手研究者の育成を目指した大学院教育を継続しています。

 脳科学専攻では、大学院共通授業科目として脳科学の入門講義を開講するとともに、複数部局に所属するセンター教員が最先端の研究を紹介し、研究室訪問や合宿研修を行うインタラクティブな授業を展開しています。また、複数の学院等が個別に行っている脳科学分野の講義を包括的なカリキュラム体系に再整備し、選択科目として履修学生に提供しています。

 さらに、2018年(平成30年)からは、全学の学部1年生を対象にした一般教育科目を開講して本学における脳科学研究への啓蒙を行っています。

 センター教員(兼任)は既存の研究院等に所属しつつ、「脳科学の融合的研究」と「広い視野をもった人材育成」を推進するため相互に協力し、研究成果を共有しながらこれらの活動を進めています。脳科学研究教育センターは、研究および教育成果を点検・評価しながら、複数の学院等を横断する新しい大学院教育プログラムを編成し、学内外のニーズに機動的に対応する組織の構築を目指しています。

脳科学研究教育センターにおける研究と組織

 これまで当センターでは、融合的脳科学研究として、「臨界期における脳機能発達」、「コミュニケーションの発達」、「先端脳機能計測」の3つのテーマに照準をあててグループを構成し、各教員はそれぞれの研究テーマを分担して研究を進めてきました。

 しかし、センター設立から約20年が経過し、脳科学研究はますます多様化して領域の融合が進み、従来の研究グループの枠組みでは捉えきれないものが多数を占めるようになりました。例えば、コミュニケーションに関わる脳領域をMRIやMEGなどの先端機器を用いて調べる研究や、脳機能発達にかかわる神経活動を蛍光イメージングで可視化する研究、認知機能に関連した特定の神経回路を光遺伝学や化学遺伝学の手法を用いて操作する研究、課題中に得られた神経活動や行動などのビッグデータを機械学習の手法を用いて解析する研究、経頭蓋刺激やニューロフィードバックによるヒトの高次機能への介入研究など、新しい研究が盛んに行われています。

 また、センター教員間の研究交流も設立当初と比較すると格段に複雑化しており、これまでのグループ制の意義が薄れてきました。このような背景のもと、脳科学研究教育センターでは2023年(令和5年)度より従来のグループ制を廃止し、より柔軟な研究交流を加速させるとともに、グループ制にとらわれない実効的な教育プログラムを策定することができる体制を構築しました。

 これまで通り、センターの活動は、運営、研究、教育、評価に関わる各委員会の指揮のもとで企画・実行・点検されています。これにより、各教員や脳科学専攻履修学生は、センターが主催するシンポジウムや合宿研修、修了発表会、指定セミナーなど様々なイベントを通じて、所属部局や出身学部、研究対象、実験手法、職種、課程、学年などの垣根を越えて研究交流ができる体制となっています。

脳科学研究教育センター及び脳科学専攻の概念図

アカデミックマップ

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