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第18回:阿部 弘 副理事

大学の経営力強化のために

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 副理事の阿部弘です。URA(University Research Administrator)ステーション長を兼務しております。

 約3年前の20196月、URAステーション長の公募がありました。北大のURAは、「研究力を強化すること」はもとより「経営に資する取組を行う」とも紹介されていました。この「経営」という言葉に惹かれて応募し、採用して頂きました。

 なぜ、大学の「経営」に興味があったかについて少し記載します。

 私は、大学卒業後、研究職としてプラスチックの成形加工メーカーに就職し、材料の開発から成形加工技術の開発などを本社研究所で行っていました。199610月から欧州に駐在し、新しい技術導入や社内の製品展開の支援を行っていましたが、この時期に「失われた20年」が始まり、世界中で本社研究所(例えば中央研究所、総合研究所)が廃止となる大きな波が吹き荒れました。20004月に帰国しましたが、このときには私の会社も本社研究所がなくなり、社内シンクタンクの子会社(新事業企画の機能を担当)が設立されることになっていました。この子会社のミッションは、無くなってしまった本社研究所の大きな機能である将来事業の種(シーズ)を、担当研究者がいないバーチャルな状態のまま大学との連携から生み出し、企画・立案するというものでした。

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 欧州から戻った私は、この仕事を欧米の大学と連携して行うというのがミッションとなりました。まずは、領域を高分子素材と成形加工に分けて、米国の研究者2名にコンサルタントになってもらいました。23ヶ月に1回会いに行き、そこで最新の研究動向を収集し、関連する研究者に会って話をして、会社の新事業の種になるかを判断し、可能性があると委託研究を行うという仕事をしていました。このような活動をしているときに、米国の大学の仕組みが日本と少し違うということがわかってきました。例えば、給与の仕組みや教員の採用方法、教員の待遇改善を含めた大学との交渉、化学の博士課程の半分が女性などです。多くの研究者に委託研究を行いましたが、高額な委託研究費とさらに委託研究費に占めるオーバーヘッド(大学本部の取り分)の割合の高さに驚きました。

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 ここで一例を紹介します。米国のA大学には、人気のない学科がありました。そこの教授が1名欠員のところ、さらにもう1名が欠員となったところで、この学科が他の学科に吸収されて見かけ上消滅しました。この学科の人件費はどうなったかというと、A大学で一番人気の高い学科に学生が集められる教員を採用することになりました。2名分の人件費で優秀な教員を採用して、さらに人気を高めたいとのことです。米国的な発想ですが、同じことを日本の大学、特に国立大学で行うのはとても難しいと思います。しかしこのA大学の手法は、学生志望者を増やすことでの学生数増、受験費増や優秀な学生に来てもらうことでの研究力アップなど、大学の経営には大きい効果があるのも確かです。

 よく聞く話ですが、米国の大学で一番給与の高い人は誰かというと、答えはバスケットボールのコーチかアメリカンフットボールのコーチだと言われています。TV放映権が高額であり、大学のチーム成績が良ければ収入増につながります。大学内に試合ができる施設を持っているのも米国では当たり前なのかもしれません。また、私立大学では、株式の運用益を研究費に利用しているということで、リーマンショックのときは大変だったという話も聞きました。

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 このような米国の大学の経営を聞きかじったところで、日本の大学で何ができるのか。

 本学に赴任してからもうすぐ3年になります。大学での経営について、少し身近に感じることができていますが、URAステーションとしては何をするべきなのか。

 経営に資する取組として、研究IRデータを活用し直接的な収入である外部資金(科研費、受託研究)や大型補助金事業の獲得支援、THEインパクトランキングに代表される大学ランキングやESGなど、日本初となる大学の取組を推進することでのレピュテーションの向上、部局の外部資金獲得のためのURA派遣が挙げられます。さらに長期的な視点として、学生のものづくりの起業マインドを育成する取組(URAステーションがグローバル・ファシリティ・センターおよび産学・地域協働推進機構と連携推進している北大テックガレッジ)の立ち上げなども行っています。北海道の知の集約など、まだまだやらなければならないことはたくさんあります。

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 将来的には大学経営の裁量範囲がさらに広がり、大学の経営力の差が大学の競争力の差になると考えています。そのときに、本学が国際卓越研究大学や地域中核大学などの枠組みの中で存在感を放っているのか、「比類なき大学」として世界で確固たる地位を持っているのかわかりませんが、副理事として、URAステーション長として、現在できる最善の取組を行い、大学の経営力強化のために邁進していきたいと考えています。

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(2022年9月)

【撮影場所】
1、4枚目:創成研究機構前
2、
3枚目:創成研究機構 1階ロビー
5
6枚目:URAステーション事務室