大学案内

ホーム > 理事・副学長・副理事コラム > 令和4年度 > 第22回:横田 篤 理事・副学長

第22回:横田 篤 理事・副学長

「本学発展の歴史とSDGs」の伝道師として

 国際全般とSDGsを担当している理事・副学長の横田篤です。本年もよろしくお願いいたします。

 2020年10月に理事・副学長に就任してからはや2年2か月余りが経過しました。昨年3月には、兼務していた農学研究院の教授職を退任し、それ以来、大学本部で運営に専念しております。研究の現場を離れ、指導する学生がいなくなって今つくづく思うことは、研究は教育と表裏一体であるということです。かくなる上は、現場経験を活かして大学運営に貢献しようと、決意を新たにしているところです。

 現在、総長を中心とする執行部は、「北大らしさ」の発露として「持続可能性の追求」や「SDGs達成への貢献」を本学運営の根底に据える方針を打ち出しております。20218月に設置したサステイナビリティ推進機構にSDGs事業推進本部を設け、SDGs関連事業を一体的に推進しています。また、202112月には「2040年に向けた北海道大学の国際戦略」を策定し、柱となる4つの戦略目標の一つとして「サステイナビリティの追求」を掲げています。本学の第4期中期目標・中期計画においても、「SDGsの達成に貢献する比類なき大学」を目指しております。そのような状況の中で、2022年4月にSDGsの枠組みを使って大学の社会貢献度を測るTHEインパクトランキング2022で、本学は世界1,406大学中、総合第10位(国内第1位)にランクインしました。またSDG目標別ランキングでは、SDG2(飢餓をゼロに)で世界第1位、SDG14(海の豊かさを守ろう)、同15(陸の豊かさも守ろう)、同17(パートナーシップで目標を達成しよう)で、いずれも世界20位以内にランクインしました。

 ここで問題なのは、ほとんどの学内構成員の皆様が、サステイナビリティの追求や上記SDGs関連領域に強みを持つに至った極めてユニークな「本学発展の歴史」をご存知ない、という状況です。実は偉そうに言う私自身がその一人でした!事の顛末を告白します。それは、農学研究院長の年季が明け、現農学研究院長の西邑隆徳教授にバトンを渡し、「定年まであと3年、ようやく研究に没頭できる」などと思っていた、20194月中頃でした。「時計台サロン」という農学研究院が主催している市民講座が通算50回目となることを記念して、新旧研究院長に「北大の発展に札幌農学校・農学部が果たしてきた役割について述べよ」というお題が与えられました。

no22_01.jpg
第50回時計台サロンポスター(資料提供:農学研究院)

 さあ大変。歴史の勉強をサボっていた今までのツケが一気に回ってきました。長年、研究室や自宅の書架の肥やしになっていたその手の歴史本を大慌てで読んでみると、出てくるわ、出てくるわ。特に、札幌農学校の1期生、佐藤昌介先生の卓越した経営手腕に驚きました。

 佐藤先生は明治の半ばに札幌農学校校長に就任され、昭和の初めに北海道帝国大学総長を退かれるまで粗40年にわたって本学の舵取りをされ、「北大育ての親」と称されております。佐藤先生は米国に留学時に、モリル法(連邦政府が各州に設置された農工科大学へ広大な土地を維持資金として与える法律)による財政支援の仕組みに知見を得て、本学の運営に取り入れました。その結果、本学は「ランド・グラント・カレッジ」として広大な農場や世界最大規模の演習林(現在本学では研究林と称する)を保有するに至りました。この恵まれた資産が教育研究に活かされ、本学は食糧生産、環境保全、生物多様性、気候変動などのフィールドサイエンスに強みを持つ大学となりました。そうだったのか!佐藤先生がこれほどまでに力を尽くしてくれたのか!しかし新渡戸稲造先生や内村鑑三先生の影に隠れて、佐藤先生はほとんど知られていないではないか!本家農学の前研究院長として汗顔の至り!それからというもの、寝食を忘れて準備に明け暮れ、当日はほぼ徹夜明けでしたが、知ったかぶりをしつつ興奮気味に講演し、無事お役目を果たした次第です。打ち上げのビールが体に染み渡りました。

no22_02.jpg
事務局前に建てられている佐藤昌介像(写真提供:SDGs事業推進本部)

 という訳で、THEインパクトランキング2022で高い評価を受けた今このタイミングで、「本学発展の歴史とSDGsとの関係」を学内構成員にお伝えする必要性を強く感じ、FD・SDの形式で全部局を回って啓発・普及することを思い立ちました。幸い、昨年6月にオンラインで試行したところ、「北大の歴史がSDGs達成への活動に繋がっている点に感銘を受けた」など、予想以上の反響を得ました。これに気を良くして伝道師よろしく、総長補佐の出村誠教授とコンビを組み、昨年末から対面による学内キャラバンを実施しております。このキャラバンは、研究の現場を離れた私にとって、久しぶりに学内構成員の皆様に直に接する機会を与えてくれるオアシスとなっています。皆様の反応を見ながらの講演や質疑応答など、オンラインにはない空気感を楽しんでいるところです。

 「歴史に学ぶ」ことは重要です。SDGs達成への貢献は、元来、寒冷地における農業技術の開発と人材育成を設置の趣旨としていた札幌農学校のDNAに埋め込まれていたと言えますが、もしクラーク先生が招へいされていなかったら、もし佐藤先生が「ランド・グラント・カレッジ」の仕組みを学んでいなかったら、SDGs達成への貢献やサステイナビリティの追求に強みを持つ、今ある本学の姿はなかったことでしょう。それどころか、開拓使の廃止直後に見舞われた度重なる危機を乗り越えられず、とうの昔に廃校に追い込まれていたかもしれません。一方で、本学に付与された広大な資産は大学の維持に役立っただけではなく、その活動を決定的に方向づけました。THEインパクトランキング2022ではそうした活動が評価され、本学がとりわけフィールドサイエンスの領域で社会的インパクトの高い大学であることが証明されました。それこそが本学の特徴ですし、今後は人文社会系領域を含め、総合大学に相応しい広がりも期待されます。加速や鈍化の波があったにせよ、時々の執行部が本学の類まれな特徴を正しく認識し、運営に活かしてきたことが今の北大を形作っているものと考えられます。150年、200年と年輪を重ねる中で、後世から「あの執行部はよくやった」と言ってもらえるように、今日をしっかりと歩んで参りたいと思います。学内構成員の皆様には、ぜひ本学発展の歴史に思いを馳せ、ご自身の日々の活動とSDGsの関係に気づきを得て、誇りと矜持を持って可能性に挑戦していただけたら幸いです。

(2023年1月)