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第27回:村山 明宏 副理事

 こんにちは。副理事の村山明宏と申します。

 多くの皆様がご存知のように、20233月、先端半導体の製造を目指すラピダス社が千歳市に工場を建設するというニュースが報道されました。そして、先端半導体企業の北海道進出を受けた形で、北海道大学の半導体に関する全学的な取り組みが始まっています。私自身も担当として同年6月に小職を拝命し、その後、101日に半導体拠点形成推進本部(以下、「半導体本部」と呼びます)が設置され、今日に至っています。この半導体本部の施策につきましては、特に学外との多くのやりとりが続いており、現在も流動的であることから、ここでその詳細を記すことは差し控えさせていただきたいと思います。

 そこで、本稿では、半導体本部における構想を考えている上で、私自身が認識している背景について説明させていただきたいと思います。ただし、私個人の想いも多分に入っていますので、その点はご了承いただき、あくまでもコラムとしてお読みいただければ幸いです。

 私なりにですが、半導体に関する施策や今後の方針を考える上でのキーワードは、半導体及びそれに関連する「拡がり」という言葉に集約されると思っています。この半導体の拡がりについて、以下の3つの観点からお話させていただきます。1番目は半導体の種類、2番目(私どもが非常に注目している点ですが)は半導体が関連する科学技術分野や産業の階層、そして3番目が時間軸です。

1. 半導体の種類

 まず半導体の種類ですが、材料によって分けることができますし、働き(機能)の違いもあります。そして、様々な種類の半導体が使われています。そこで、わかりやすく説明するために、模式的に図1を描いてみました。ラピダス社が目指すのは、情報システムにおける頭脳ともいうべきロジック半導体で、材料はシリコンです。ここに描きましたように、一種類の半導体一つ一つではなく、様々な半導体や電子部品、ソフトウェアを組み合わせることで、情報システムやネットワークが構成され、あるいは情報・産業機器が作られます。これらのシステムや機器を使うことで、我々は多くの高度な仕事をすることができ、半導体を世の中に役立てることができます。

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図1 様々な働きを担う半導体の種類

 したがって、単純にシリコンのロジック半導体だけではなく様々な種類の半導体やその働きにも注目し、最終的には世の中の課題を解決し我々の社会や暮らしを豊かにするために、半導体を活用する科学技術や人材育成に必要な学術研究の基盤を構築したいと考えています。

2. 半導体が関連する科学技術や産業の階層

 1で触れたように、半導体と言いましても、その種類や働きは多岐にわたります。また、半導体を作るための科学技術も必要です。このような拡がりを階層として捉え、その模式図を図2に示します。社会の課題を解決する、あるいはニーズに応えるためには、情報システムやネットワークが必要になります。そして、そのようなシステムにおいて、半導体を始めとする電子部品などのハードウェアとしてどのようなものが必要であるか、またソフトウェアとどのように連動させていくかなど、全体の設計図を考えていきます(これを「集積アーキテクチャー」と呼びます)。その中で、個々の半導体の仕様や構造を決める設計を行い、最終的には、その設計や仕様に応える半導体を製造する必要があります。一方、半導体の製造では、高度な微細加工などの製造技術や多くの原材料を使います。これらの各階層においてそれぞれ必要となる科学技術は、今、非常に高度化し、かつ急速に発展しています。

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図2 先端半導体が必要とする科学技術の階層

 さらに、半導体を中核とする情報システム・ネットワークや情報・産業機器を考えていく上では、社会においてどのようなニーズがあるのかをよく検討する必要があります。クラウドやスマートフォン、自動運転などの世界を変えるような大きな変革もあります。一方、本学においては、様々な現実世界や自然環境と向き合うフィールド科学や地域社会における課題に対する研究が行われています。今は規模が小さくても、これらの中から先端半導体を活用することで課題を解決できる、そして将来的には世界的にも価値が認められるようなシステムを提案できる研究の土壌を作り出すことが重要であると認識しています(図3)。

 ここで重要なことは、現実世界の様相はアナログ量のデーターであることです。そして、アナログデーターをデジタル変換して情報システムに入力し活用していきます。この全体をデーター科学(科学的なデーターにもとづいた学術研究)の枠組みとして捉えることができます。この中で、先端半導体を活用する課題設定や応用、実際のトライアンドエラー(半導体を活用した情報処理やそのための半導体の設計と作製、作製技術や材料などを自ら研究し、得られた結果を学術研究や産学連携研究の成果として問う:実証型研究)を経験した多くの学生の皆さんを、半導体及び関連分野の研究者として産業界に輩出していきたいと思っています。

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図3 半導体が駆動するデーター科学

3. 時間軸

 図4に示すように、本学にとっての時間軸を考えますと、2027年に予定されているラピダス社の量産開始がマイルストーンになります。これにより、千歳市を中心に、ラピダス社の製造を担う製造装置や原材料メーカーの拠点が形成され、集積していくはずです。具体的な状況については、現在の熊本を中心とした九州を巡る報道が参考になると思います。

 一方で、大学として考えていく必要がある時間軸は、人材育成に必要な時間スケールです。ここに描きましたように、大学の入学から修士課程の修了まで6年、博士課程までですと9年かかります。そして重要なことは、半導体産業を支える人材育成における世代とも言うべき循環の考え方です。すなわち、半導体産業を支える有為な人材が育ち、その人たちが社会で活躍していきます。卑近な例ですが、既に日本でも従来にない高い給与水準が得られ始めています。また、外資系では博士人材の積極的な雇用が進められており、これらの動きは国内企業にも波及していくでしょう。そして、半導体に関わる人たちの社会的な活躍を見ることで、次の世代である中高校生たちが半導体や関連分野の勉学に意欲を持って進学し、また大学において我々が人材育成を担っていく、そのような長い時間をかけた循環を考えていく必要があります。

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図4 半導体の人材育成を巡る時間軸

 以上をまとめますと、これら3つの半導体を巡る「拡がり」を考えつつ、それらの組み合わせの中で、また学内外のさまざまな状況を踏まえながら、半導体に関する施策や教育プログラム、先端研究や産学連携の推進、そして目指すべき最終的な高度人材の育成像などを幅広く考えていく必要があります。現在、半導体本部ではそのような具体的作業を進めており、都度、皆様にはご説明の上ご協力いただくようになる、今年はそのようなフェーズに入っていくと思っています。

 最後に、以下の2点のメッセージを付け加えた上で、終わりにさせていただきます。

(1) 本学における半導体の取り組みに関しましては、総長の寳金清博先生は第2の開学にも匹敵するという言葉を使われています。私なりに咀嚼いたしますと、札幌農学校開学時の明治9年、ここ北海道は、人口およそ18万人の中央から遠く離れた地でした。そして、諸先輩方の努力により、今の北海道の発展が築かれています。また本学の理念としても、このフロンティア精神が第1に挙げられています。現代における先端半導体を支える科学技術や産業の発展には、人工知能を始めとする高度な情報科学技術との融合や、例えば原子レベルでの表面界面反応の制御を始めとする未踏技術の研究などが必須であり、その最前線は、まさに本学も担うべき科学技術のフロンティアと捉えられます。

(2) 私の研究室の学生の皆さんには話していることですが、何かを使うだけではなく、作り(創り)出す人になって欲しいと思っています。日本は、家電や自動車を始めとする多くの製造業においてものづくりを進め、今日の発展を築いてきました。一方では、アメリカのGAFAMに代表される高付加価値の新しい情報産業も発展しています。将来にわたって日本が担うべきものづくりとは、ソフトウェアやシステムも含めた形になりますが、その典型的な例が先端半導体を活用する産業であると考えています。社会や我々の暮らしを豊かにする新しい科学技術や製品を創り出すため、半導体そのものだけではなく先ほど述べました各階層も含めた分野へ、ここ北海道大学から多くの若い人たちが巣立っていって欲しいと願っています。

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図5 半導体産業に関する日本最大のイベント「セミコンジャパン」において、北海道大学における人材育成の取り組みを紹介しました(セミコンジャパン事務局作成パネル、許可を得て掲載)