研究実施計画概要

ドパミン神経系に着目した難治性気分障害の統合的研究

本研究グループによってなされた難治性うつ病患者に対するドパミンD2受容体作用薬の有効性を示した臨床研究、およびメタンフェタミン慢性投与動物が双極性障害に類似した生体リズム異常を示すことを明らかにした基礎研究に基づいて、臨床および基礎研究を統合的に推進することにより、難治性気分障害の病態を追究するものである。具体的には、ドパミン神経系と生体リズムに着目し、うつ病と双極性障害の鑑別やドパミン神経系作用薬が有効な症例の鑑別を可能とする生物学的指標を見出すとともに、それらの裏付けとなるエビデンスを得ることを目的とする。

1.診断・鑑別のための生物学的指標を見出す臨床研究

下記の@〜Dの項目について、うつ病、双極性障害、健常者の比較検討を行い、うつ病と双極性障害を鑑別する生物学的指標を得る。さらに、臨床での治療過程においてドパミン増強療法が有効であった症例群と効果が確認できなかった症例群についても生物学的指標を比較検討し、ドパミン作用薬が有効な症例の指標、薬効予測あるいは薬効評価因子を明らかにする。

  1. @報酬課題時の腹側線条体の脳活動状態をfMRIにより測定する。
  2. A血中HVAの濃度を測定し、症状との関連性を解析する。
  3. Bドパミントランスポーター(DAT)のSPECT用リガンドを用い、脳内ドパミン系とうつ症状との関連を解析する。
  4. Cデキサメサゾン/corticotropin releasing hormone (DEX/CRH)試験を行い、HPA系の機能を解析し、症状との関連性を検討する。
  5. D幼少期・成人期のストレスや生体リズム障害、症状の季節変動について質問紙による評価を行うとともに、アクチウォッチによる生体リズム計測を行い、疾患との関連性を検討する。
2.気分障害モデル動物における生物学的指標の解析

臨床研究により得られたうつ病と双極性障害を鑑別する生物学的指標、さらには、ドパミン神経系作用薬が有効な症例群を鑑別する生物学的指標の妥当性の検証とその意義(病態生理)解明ために、モデル動物を作製し、その妥当性と疾患マーカーの意義を検討する。

a.モデル動物作製と妥当性の検討
うつ病モデルとして幼若期ストレスと成獣期ストレスの複合ストレスモデル、双極性障害モデルとしてMAP投与モデルあるいはClock遺伝子変異と幼若期あるいは成獣期ストレスの複合ストレスモデルを作製し、これらモデル動物の妥当性を、スクロース嗜好性試験や強制水泳試験などを用いた行動バッテリー試験、生体リズム解析、ドパミン神経機能に関連する脳部位における遺伝子・タンパク質発現解析、ドパミン神経のシナプス可塑性やネットワーク構築変化に関する分子解剖学的解析などにより検討する。加えて、これモデル動物における薬物反応性をうつ病および双極性障害患者の症状および治療効果と比較し、モデル動物の妥当性を検証する。
b.生物学的指標の解析
前述@〜Dでのヒトにおける生物学的指標についてモデル動物を用いてその妥当性と意義(病態生理)を検証する。

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