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隔離した1神経細胞の概日リズム測定にはじめて成功~概日リズム中枢の神経ネットワーク解明に大きく前進~(大学共同利用機関法人自然科学研究機構生命創成探究センター 榎木亮介 准教授)

2019年12月5日

ポイント

●ほ乳類の概日リズム中枢を司る脳領域の単一神経細胞を物理的に隔離して計測することに成功。
●神経細胞は1個でも安定した概日リズムを刻み,グリア細胞は神経細胞のリズムを乱すことを発見。
●本研究は概日リズムのメカニズムの全容解明や薬剤開発のための高速な評価法への応用に期待。

概要

北海道大学の本間研一名誉教授,北海道大学脳科学研究教育センターの本間さと客員教授,同電子科学研究所の榎木亮介准教授(当時)(現:大学共同利用機関法人自然科学研究機構生命創成探究センター)らの研究グループは,哺乳類の単一の神経細胞を物理的に隔離して長期間培養し,リズムを可視化する手法を確立し,概日(がいじつ)リズムの中枢領域である視交叉上核(しこうさじょうかく)の神経細胞は1個のみでも安定した概日リズムを刻むこと,また,脳組織を構成するグリア細胞が神経細胞の概日リズムを不安定化させることを発見しました。

ほ乳類の概日リズムは視床下部(ししょうかぶ)の視交叉上核に存在する神経細胞により制御されており,近年そのリズムを生み出す詳細な分子機構や細胞メカニズムについての理解が進んでいます。一方で,概日リズムは不安定な振動を示す神経細胞に由来するとの説もあり,研究者の間で長く議論されていました。しかしながら,1個の神経細胞のみを隔離して計測することが実験的に難しく結論が得られていませんでした。

これまで本研究グループは,視交叉上核の神経細胞の働きを時計遺伝子の発現や細胞内カルシウムを指標として長期間可視化する研究を行ってきました。今回,新たに半導体作製などで使用される微細加工技術によるマイクロパターニング手法などを用いて,視交叉上核の神経細胞を一個ずつ物理的に隔離して培養することで,シナプス結合など他の神経細胞と一切接触をもたない単一神経細胞から,時計遺伝子の発現や細胞内カルシウム濃度変動を可視化することに成功しました。その結果,大多数の神経細胞は明瞭で安定した概日リズムを示すことがわかり,また神経細胞が刻む概日リズムはグリア細胞と共存することにより抑制されることが明らかとなりました。

今回の研究成果は,長らく議論されてきた問題に終止符を打つだけでなく,細胞やネットワークレベルでの概日リズム生成の基本メカニズムの全容解明に寄与するものです。さらに新たに開発した計測法は,概日リズムを調節する薬剤の高速評価系への応用など創薬にも寄与することが期待されます。

なお本研究成果は,2019年12月4日(水)公開のScientific Reports誌にオンライン掲載されました。

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