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ノンコーディングRNA構造体nSBの新機能を発見~温度を感知したリン酸化反応の「るつぼ」として働く~(遺伝子病制御研究所 教授 廣瀬哲郎)

2019年12月2日

ポイント

●核内ストレス体(nSB)は,熱ストレスからの回復期のRNAスプライシングを制御し,400種類のmRNAのイントロン残留を促進。
●nSBは,CLK1キナーゼによるスプライシング制御因子のリン酸化の場としてストレス回復期に働く。
●CLK1によるリン酸化は,ストレス回復期の温度依存的なRNAスプライシング制御に必要。

概要

北海道大学遺伝子病制御研究所の廣瀬哲郎教授,二宮賢介助教らの共同研究グループは,ノンコーディングRNA(ncRNA)を骨格として作られる細胞内構造体の核内ストレス体(nSB)の新機能解明に成功しました。

21世紀に入りヒトゲノムから機能未知のncRNAが大量に産生されていることが明らかとなり,大きな注目を集めています。本研究グループは,これまでに核内構造体の骨格として働くncRNAを発見し「アーキテクチュラルRNA(arcRNA)」 と命名しました。細胞核内に多数存在する核内構造体のうち,熱ストレス条件下で迅速に誘導形成される核内構造体nSBは,HSATIIIという霊長類特異的なarcRNAを骨格として,多くのタンパク質と共に形成されますが,その存在意義は発見以来30年にわたって謎のままでした。

本研究グループは,HSATIIIarcRNAの機能阻害により,熱ストレス条件下でもnSBが形成不全の細胞から抽出したRNAの次世代シーケンス解析から,nSBがRNAスプライシングを抑制し,400種類ものmRNAのイントロン領域を保持したまま前駆体mRNAとして蓄積する現象(イントロン残留)を促進することを発見しました。このnSB機能は,主に熱ストレスが去った後のストレス回復期に発揮されます。さらにnSBの141種類の構成タンパク質を同定し,その中のリン酸化酵素であるCLK1キナーゼが,ストレス回復期になるとnSBに取り込まれて,すでに熱ストレス中に取り込まれていたスプライシング因子を効率良くリン酸化していることを明らかにしました。またこのリン酸化は,上記のイントロン残留に必要なことがわかりました。以上のことから,nSBはスプライシング因子のリン酸化反応の「るつぼ」として働き,イントロン残留による温度依存的な遺伝子発現を制御していることが明らかになりました。今後,nSBの生理機能を明らかにすることによって,霊長類特有の制御機構の重要性を解明できると期待されます。

なお,本研究成果は,2019年11月29日(金),The EMBO Journal誌にオンライン掲載されました。

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