大学案内

ホーム > 大学案内 > 科学技術 > 気候変動が熱帯域諸国の魚類資源を奪う~今後の気候変動適応策へ新たな知見を与えることに期待~(北極域研究センター 平田貴文 特任准教授)

気候変動が熱帯域諸国の魚類資源を奪う~今後の気候変動適応策へ新たな知見を与えることに期待~(北極域研究センター 平田貴文 特任准教授)

2020年3月17日

ポイント

●新開発したコンピューターモデルで気候変動による魚類の生息分布域の変化を予測。
●温室効果気体の排出状況によっては,熱帯域諸国の魚種数が40%以上失われる恐れを示唆。
●慎重な政策決定が必要な場面において新たな知見を与えることに期待。

概要

北海道大学北極域研究センターのホルヘ ガルシア モリノス助教らの研究グループは,気候変動によって水産魚種の分布域が変わることで,海域から流出する魚種の代わりに流入する魚種がいない熱帯域諸国において,多くの水産資源が失われる恐れがあることを見出しました。

海水温度が上昇するにつれ,魚類は適温環境を求めて温度が相対的に低い環境へ移動します。研究グループは,2015年から2100年までの温室効果気体排出シナリオを用いて,779の漁業対象魚種の生息分布域の変化を予測するコンピューターモデルを開発しました。このモデルによると,比較的緩やかな温室効果気体排出シナリオの場合,熱帯域諸国では2100年までに現在の魚種数の15%を失う恐れがあり,より過酷な排出シナリオの場合は40%以上も失う恐れがあります。また,北西アフリカの国々は魚種数の減少が最も大きく,東南アジア,カリブ海諸国,中央アメリカ諸国でもかなりの魚種数の減少に直面することが示されました。

科学者達は,現存する地域内・多国間・二国間政策などが,気候変動によって各国の管轄水域(排他的経済水域;EEZ)から流出する魚種の管理に必要な規定を盛り込んでいるかについて疑問を持っています。公表されている127の国際漁業協定を解析した結果,いずれも気候変動,魚類生息地の変化あるいは資源量に関して,直接的な記述をしているものはありませんでした。また,いくつかの協定では短期的な資源変動を管理する仕組みは含まれていましたが,現存する協定の中で魚類資源を失う国による乱獲を防ぐ長期的政策が含まれているものはありませんでした

本研究成果は,慎重な政策決定が必要な場面において新たな知見を与えると期待されます。

なお,本研究成果は,2020年2月24日(月)公開のNature Sustainability誌に掲載されました。

詳細はこちら


気候変動で2100年までに流出する想定される魚種数(赤い地域ほど流出数が多い)
(左)温室効果気体排出が比較的緩やかなシナリオ(右)排出がより過酷なシナリオ