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植物に共生するシアノバクテリアの運動性獲得因子を同定~非マメ科植物に対する窒素固定性シアノバクテリア共生付与技術への第一歩~(農学研究院 教授 橋床泰之)

2019年4月2日

ポイント

● 植物に共生できるシアノバクテリアを運動性の形態に分化誘導する化学因子の単離精製・同定に成功。
● HIFがジアシルグリセロール類の一群であることを証明。
● 植物と植物共生シアノバクテリアの共生系成立機構の解明から,持続型農業への応用に期待。

 

概要

北海道大学大学院農学研究院の橋床泰之教授らの研究グループは,窒素固定性シアノバクテリアが共生したソテツの特殊根(サンゴ状根)抽出物に,Nostoc属シアノバクテリア(ラン藻類ネンジュモ)を運動性の形態(連鎖体,ホルモゴニア)に分化誘導する化学因子(ホルモゴニア分化誘導因子,HIF)が含まれていることを発見し,その単離精製・同定に成功しました。

この活性本体は,1-パルミトイル-2-リノレオイル-sn-グリセロールを中心としたジアシルグリセロール類でした。1-パルミトイル-2-リノレオイル-sn-グリセロールとその立体化学が反転した2-リノレオイル-3-パルミトイル-sn-グリセロール,さらにはアシル基の炭素の数や不飽和度の異なるジアシルグリセロール類をいくつか化学合成し,それらのHIF活性を比較しました。その結果,天然型の1-パルミトイル-2-リノレオイル-sn-グリセロールは最も活性が強く,逆に1-リノレオイル-2-パルミトイル-sn-グリセロールは活性が全く認められませんでした。加えて,1位にのみアシル基が結合したモノアシル-sn-グリセロール類や3位にリン酸が結合したフォスファチジン酸類も活性を示しませんでした。一方,ジアシルグリセロール類は細胞内シグナル伝達カスケードの鍵酵素であるプロテインキナーゼC(PKC)を活性化することが知られているため,非リピド型のPKC活性化薬剤のいくつかについてもHIF様の活性があるかを調べましたが,それらPKC活性化剤には明確な活性は認められませんでした。

この研究によって,ほとんど全ての植物に普遍的に含まれているジアシルグリセロール類の一部がホルモゴニア分化誘導因子として働くことが明らかになった事実は,大きな意味合いを持ちます。Nostoc属シアノバクテリアとの共生が可能なソテツや多くのコケ類では,共生体であるシアノバクテリアをホルモゴニアとして植物へ引き寄せるために,宿主への誘引因子と宿主植物での定着を促す化合物を共生因子として放出していると考えられるからです。

もし,この共生因子を特定できれば,不特定の植物とシアノバクテリアとの半共生関係を効率良く成立させられる可能性があります。また,橋床教授の研究室では既にソテツリタ−(落葉)からソテツに特有のホルモゴニア分化誘導因子の単離精製にも成功しており,その化合物(ビフラボン)はホルモゴニアを植物に誘引するホルモゴニア誘引因子でもあることを明らかにしているため,今後の研究の発展が期待されます。

なお,本研究成果は,Scientific Reports誌に英国時間2019年3月18日(月)に掲載されました。

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