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北極域の積雪がユーラシア大陸の熱波を強めることを解明~雪氷圏のモニタリングによる夏の季節予報の改善を示唆~(地球環境科学研究院 准教授 佐藤友徳)

2019年8月6日
北海道大学
文部科学省北極域研究推進プロジェクト

ポイント

●近年の夏の気温変化を,地球温暖化による影響と自然変動による影響に分離。
●ロシア西部の積雪量が中・高緯度の夏の気温パターンに影響することを解明。
●中・高緯度の大陸上において晩冬の積雪量や春の土壌水分を用いることで夏の熱波の季節予報が改善されることが期待。

概要

北海道大学大学院地球環境科学研究院の佐藤友徳准教授,中村 哲博士研究員の研究グループは,中・高緯度で近年しばしば発生する熱波の発生要因を解明するために,気候モデルによって再現された大量の過去気候データを解析し,過去のユーラシア大陸における夏の気温変動を,「地球温暖化に起因する気温変化」と「自然変動に起因する気温変化」に分離することに成功しました。

さらに,「自然変動に起因する気温変化」のうち,偏西風の蛇行に関連した,高温域と低温域が東西方向に交互に連なる波列状の気温分布が発生する要因を調べ,ユーラシア大陸における夏の気温パターンが北極域における晩冬~春の積雪深変動の影響を強く受けることを明らかにしました。波列状の気温分布が夏に卓越する年には,数か月前の晩冬~春の時点でロシア西部の積雪が普段に比べて多く,このような多雪の影響は,春の融雪を経た後には,高い土壌水分量として春から夏まで持続し,この地域の夏の気温を低温化します。地域的な低温化は偏西風の蛇行を促し,その周辺地域では反対に高温になりやすくなると考えられます。

中・高緯度帯では,日々の天気の移り変わりの早さに比べて,海洋や陸面状態(積雪や土壌水分など)は比較的ゆっくりと時間変化するため,その影響は長期間持続し,大気に継続的な影響を与える傾向があります。特に広大なユーラシア大陸では,陸面状態を詳細に調べることで,季節予報の精度向上が期待されます。また,本成果により北極域の陸面状態の変化が中・高緯度の夏の天候に影響を与えていることが明らかとなりました。これは,気候変動の要因分析において陸面環境と大気・海洋との相互作用系の理解が重要であることを指摘しています。

本研究は,文部科学省北極域研究推進プロジェクト「ArCS: Arctic Challenge for Sustainability Project」及び科学研究費補助金「日本およびアジア地域における過去の地域気候変動のアトリビューション」の一環として行われ,2019年7月2日(金)公開のScientific Reports誌に掲載されました。

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