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昆虫の特異的な腸内共生は細菌間の競合によって形作られる(農学研究院 客員准教授 菊池義智)

2019年10月23日
北海道大学
国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)

ポイント

●昆虫腸内で細菌間の競合が起き,シンプルな腸内共生が形作られ維持されることを解明
●腸内競合性が昆虫腸内細菌の進化に重要であることを解明
●害虫の腸内共生を制御する新たな技術開発への貢献に期待

概要

北海道大学大学院農学院博士後期課程のJang Seonghan氏と,同農学研究院客員准教授及び産業技術総合研究所生物プロセス研究部門主任研究員の菊池義智氏らの研究グループは,国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と共同で,秋田県立大学,フランス国立科学研究センター(CNRS)と協力し,昆虫のシンプルな腸内共生系の成立と維持において,細菌間の腸内競合が決定的な役割を果たすことを明らかにしました。

腸内共生はわれわれ人間を含めほとんどの動物に見られる普遍的な現象であり,食物の分解や不足栄養素の供給,免疫系の恒常性維持において重要な役割を果たしています。多くの場合,腸内細菌群集には種特異性が認められますが,その特異的な腸内細菌群集がどのように形作られ,維持されているのか,未だ不明な点が多いのが現状です。昆虫の腸内共生は哺乳類の腸内細菌群集に比べてその種構成がシンプルであり,特異性や維持機構を解明するための実験モデル系として利用されています。

今回研究グループは農作物の難防除害虫として知られるホソヘリカメムシにおいて,幼虫期に複数の細菌が共生した場合にも,細菌同士の競合が起き,最終的には腸内環境に最も適応した1種独占となることを明らかにしました。この研究は,昆虫のシンプルな腸内共生の成立と維持において,細菌の腸内における競争能力が決定的ともいえる重要な役割を果たしていることを初めて明らかにしたものであり,多様な動物における腸内共生の進化機構の理解に示唆を与える大きな成果と言えます。本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業(15H05638,19K15724),特別研究員奨励費(201911493)等の支援を受けて行われました。

なお,この研究成果は,2019年10月22日(火)に,Proceedings of the National Academy of Sciences USA誌(米国科学アカデミー紀要)にオンライン掲載されました。

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