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流体力学の手法で食品の流動物性評価法を更新~食品の食べやすさ・食べ応えの普遍的評価法確立に期待~(工学研究院 准教授 田坂裕司)

2019年11月28日

ポイント

●既存の計測器では困難であった,固形物を含む液状食品の流動物性評価に成功。
●最新の計測手法に比べて物性の経時変化を正しく評価できることを証明。
●嚥下困難者用の,安全かつ食べ応えがある流動食開発への貢献に期待。

概要

北海道大学大学院工学研究院の田坂裕司准教授,同工学院博士後期課程の芳田泰基氏の研究グループは,食品の流動物性(レオロジー)を評価する新たな手法を提案しました。

これまでに食品のレオロジー評価に用いられてきたトルク式レオメトリは,試験液体が均質であることなど前提が多く,固形物を含む液状食品の評価は困難でした。そこで研究グループは,独自に開発したレオメトリを用いてそのような食品のレオロジー評価を目指しました。

開発された「回転式超音波レオメトリ」は,超音波を使って液体の速度分布を計測する手法と円筒容器の振動回転により生じる流れを組み合わせ,流体力学の方程式を介してレオロジーを評価する方法です。これまで粘土鉱物や気泡を含む液体など多くの複雑な液体へ適用されてきましたが,今回,レオロジーを評価するための計測対象に選ばれたのは,固形物を含む液状食品であり,多くの方になじみのある「フルーチェ(ハウス食品)」です。そのプルプルとした食感は,フルーチェの粉末に含まれるLMペクチンが,牛乳に含まれるカルシウムを取り込みゲル化することでもたらされます。ゲルの状態はかき混ぜる度合いにより変化し,流動化や粘度の減少,時間経過に伴うゲルの回復などが調和し,特徴的な食感をもたらしています。

研究グループは,フルーチェをあえてパッケージの指示から増減させた牛乳量で作り,その差がレオロジーに与える影響を調査しました。従来の手法では,フルーチェを裏ごしして果肉を取り除く必要があるほか,フルーチェの経時変化するレオロジーを正しく捉えられません。しかし,今回提案した手法では,容器にフルーチェを入れるだけで計測可能なため本来のレオロジーを評価できるだけでなく,瞬時評価も可能なため長時間に渡りその本質を取り出すことが可能です。発表された論文では,開発した手法で得られるこれらのメリットと従来の手法を比較することで,前者の有意性が示されています。従来の手法は,試食によるアンケートとともに食べやすさを評価する指標となっていますが,開発した手法によって食品のレオロジー評価方法をより高度にアップデートできます。食の安全と食を介したQuality of Lifeの向上を両立する流動食品の開発などに貢献することが期待されます。

これは,本学が推進するロバスト農林水産工学研究の一環として行われた研究成果です。

なお,本研究成果は,2019年11月1日(金)公開のPhysics of Fluids誌に掲載されました。

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フルーチェを試験用の円筒に入れて計測を行う様子。
円筒外側左の筒が超音波を照射するトランスデューサで,青破線上の速度分布を計測。
写真下図は,計測した速度分布から計算したフルーチェの変形度合い。正方形のグリッドからのずれが変形を意味し,この変形の時間変化からレオロジー物性を算出。