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北大から南極の海洋観測へ~青木隊長とともに4名の教職員・学生がトッテン海域に出航~

 本学の低温科学研究所は、南極の氷と海の相互作用についての研究・観測に貢献してきました。第61次南極地域観測隊には、隊長の青木茂准教授の他に、中山佳洋助教、小野数也技術専門職員、ウォンパーン・パット研究員、山崎開平さん(環境科学院博士後期課程1年)の4名が参加します。一行を乗せた砕氷船「しらせ」は現地時間12月2日にオーストラリアのフリーマントルを出航しました。4名に観測隊での役割とその意気込みなどについてお話を伺いました。


南極観測の任務に臨む本学の隊員たち。
左から低温科学研究所の小野技術専門職員、中山助教、ウォンパーン研究員、山崎さん

 

海面上昇への影響が懸念されるトッテン海域、世界に先駆けた調査へ
 「南極は地球の中で特に知られていないことが多く、理解しなければいけない場所」と話す中山助教は、南極の「棚氷」と海の関係について研究しています。南極の氷河は長い年月をかけて、ゆっくりと陸から沖へと流れていきます。こうして大陸から海へせり出している部分が棚氷です。棚氷は氷河の流れをせき止める栓のような役割をしており、棚氷がとけて氷の厚さが薄くなると、栓の力が弱まります。すると、海へ流れ出る氷河のスピードも速まり、海面上昇につながる可能性があるのです。


南極大陸の断面図。氷河からせり出した部分が棚氷《資料提供:中山助教》

 中山助教が行う主な任務は、東南極で流出量が増えている可能性のあるトッテン氷河と棚氷周辺の観測です。海底地形や海水温度、成分などが数年にわたりどう変化していくのかを「係留観測」という手法で調査します。棚氷がとける要因は、その下に温かい海水が流れ込むことだとみられており、係留観測によって周辺海域の流れをコントロールするメカニズムの解明を目指します。「棚氷周辺の経年変化を知ることは、海面上昇など50年後100年後の南極、地球を考える上で大変重要です。しかしトッテン海域は海氷が厚く、船でそこに行くことすら困難な状況で、継続的な観測は行われていませんでした。今回は大型砕氷船の『しらせ』を使うことで、世界に先駆けて調査を行うことができます」と話します。


南極研究の重要性について語る中山助教
 

海洋観測のスペシャリストが研究をサポート
 第52次、58次につづき3度目の南極地域観測隊として参加する小野技術専門職員は、豊富な経験に基づく観測技術で中山助教らの研究をサポートします。主に海氷の厚さの測定や、係留観測に使われる測器の設置・回収を行います。小野技術専門職員は「失敗できない」と自ら語る大事なミッションを担っています。「海の底に沈められた測器は、数年かけて海のデータを取得します。そのため、測器の設置場所や設置方法を吟味し、これからこのトッテン海域での係留観測を続けていくための道筋を立てることが大切です」。


確かな海洋観測技術を持った小野技術専門職員。
中山助教からの信頼も厚い

 写真を撮ることが趣味という小野技術専門職員は、南極へたくさんの撮影道具を持っていくそうです。小野技術専門職員が過去に撮影した南極での写真は、低温科学研究所のウェブページなど様々なところで使用されています。
 

南極海の構造を理解し、氷床流出の解明を目指す
 山崎さんは、南極海の流れの構造を調べるために、「しらせ」から「XCTDセンサー」と呼ばれる装置を海に投下し、水温と塩分をリアルタイムで計測します。投下位置は事前に計画して臨みますが、氷に阻まれて立ち入れない領域などもあるため、現場での判断が必要です。XCTDセンサーは、トッテン棚氷の沖合や昭和基地への往路など、最大300か所で投下する予定です。棚氷の周辺で様々なデータを取ることで、棚氷をとかす温かい水がどこから流入してくるかを探ります。


「南極海の研究を通して、100年先の地球気候を調べたい」と語る山崎さん

 山崎さんは今年1月から3月まで水産庁の調査で南極を訪れており、南極での観測は今回が2度目となります。「前回の調査での経験を活かしつつ、海洋チーム一番の若手として積極的に切り込んでいきたいです」と意気込みます。
 

海氷が海の生態系に影響を及ぼす
 ウォンパーン・パット研究員は、「極暑のタイで生まれ育ったので、幼いころから涼しそうな南極に憧れを持っていました」と話します。ニュージーランドで南極の海氷の研究を進め、昨年10月に青木研究室にやってきました。今回の南極観測でウォンパーン研究員が担うのは、オーストラリアとの共同で実施する海氷観測です。最新鋭の「海氷センサー」と呼ばれる放射計やGPS付きのブイを使って、海氷をモニタリングします。海氷には植物プランクトンや海の栄養分が含まれており、融解時に植物プランクトンの増殖を引き起こします。海氷は海洋循環や気候変動だけでなく、海の生態系や物質循環を考えるうえでも非常に重要な存在なのです。


海氷観測の手法について説明するウォンパーン研究員

 ウォンパーン研究員は、これまでに3度南極を訪れていますが、今回の滞在が最長となるそうです。観測のほかに楽しみにしていることを尋ねると、「コックさんがどんな和食を作ってくれるのかが楽しみ。それから、オーロラが見られたらぜひ撮影したいです」と目を輝かせます。
 

 最後に中山助教は、「南極観測に興味のある人は、南極研究を低温科学研究所で続けていれば南極へ行くチャンスが巡ってくるかもしれません。南極の海洋には、まだ分からないことがたくさんあります。ぜひ、北大で南極研究をしてみませんか」と話してくれました。第61次南極地域観測隊では、謎に包まれたトッテン海域での調査を本学の隊員が牽引していきます。日本の南極海洋観測の歴史に新たな一歩を踏み出す彼らの活躍に期待が高まります。


青木研究室の隊員。出発前の成田空港にて
《写真提供:小野技術専門職員》

 

(総務企画部広報課 広報特派員 生命科学院修士課程1年 越後谷駿
総務企画部広報課 学術国際広報担当 菊池優)

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