2020年5月26日
北海道大学
ポイント
●新しいがん治療法である光免疫療法の光化学反応過程を計算により解明し,実験的に証明。
●近赤外線が直接反応に関与するのではなく,薬剤を反応しやすい状態に変化させることを解明。
●近赤外線以外の方法によって薬を活性化することで,深部がんへの適用にも期待。
概要
北海道大学大学院理学研究院及び同大学創成研究機構化学反応創成研究拠点の小林正人講師,武次徹也教授らの研究グループは,同大学大学院薬学研究院の高倉栄男講師,小川美香子教授らと共同で,近赤外線を用いた新規がん治療法である光免疫療法で利用されるIR700という薬剤の光化学的反応過程を解明しました。
光免疫療法では,IR700を抗体に結合させた薬剤を用い,これをがん細胞に結合させます。これに近赤外線を照射すると,IR700に付随する水溶性の軸配位子が切断されて薬剤の凝集が起こり,薬剤が結合したがん細胞のみを殺すことができます。研究グループでは,この近赤外線の役割を量子化学計算というコンピュータシミュレーションを用いて明らかにしました。その結果,IR700の軸配位子切断は周辺にある水分子との反応(加水分解)により起こること,そして近赤外線は薬剤に電子を注入して「ラジカルアニオン」という状態をつくり出すことのみに関与していることを突き止め,IR700分子を用いた実験によってこの光化学反応過程が正しいことを証明しました。
本研究で見出したメカニズムを踏まえることで,近赤外線が届きにくい生体深部のがんにもIR700を用いたがん治療が可能となるものと期待されます。
なお,本研究成果は2020年5月25日(月)公開のChemPlusChem誌(オンライン版)に掲載されました。
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