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コンピュータが先導するα-アミノ酸の化学合成~新反応開発の新しい戦略,開発時間の大幅短縮へ貢献~(創成研究機構化学反応創成研究拠点 特任准教授 美多剛)

2020年6月2日

ポイント

●α-アミノ酸の一種で,効率的な合成法が存在しないα,α-ジフルオログリシンの化学合成に成功。
●α,α-ジフルオログリシンの合成経路をコンピュータが予測し,合成化学実験により実証。
●計算科学主導の合理的な新反応開発が実現。その更なる発展に期待。

概要

北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の美多 剛特任准教授及び同拠点拠点長・同大学院理学研究院化学部門の前田 理教授らの研究グループは,コンピュータ上で可能性のある反応経路を予測し,得られた計算結果を合成化学実験によって具現化することで,α-アミノ酸の一種であるα,α-ジフルオログリシンの化学合成に成功しました。

従来の有機合成化学に立脚した新反応開発では,有機合成化学者の経験や合成的なセンスが必要であることに加え,年単位に及ぶ膨大な実験が必要とされてきました。そのため,一つの革新的な反応の開発にかかる時間や費用が研究者にとって大きな負担でした。それに対し,本学の新しい研究拠点であるICReDDの核心技術であるAFIR法(人工力誘起反応法)は,量子化学的逆合成解析と呼ばれる手続きによってターゲット分子の合成経路を網羅的に予測することができます。そのため,ターゲット分子の合成が可能かどうか,可能な合成経路の化学収率はどの程度か,といったことを,予めコンピュータ上で予測することができます。したがって,長時間を要する実験的な反応条件の検討を省略することが可能であり,開発時間の大幅な短縮が見込まれることから,本手法を活用してグリシンの生物学的等価体であるα,α-ジフルオログリシン(これまでに効率の良い化学合成法が存在しない)の化学合成に取り組みました。その結果,わずか2か月という短期間で,その化学合成を達成しました。本手法はこれまでに先例のない合成戦略であり,次世代型の「計算による合成経路予測合成実験による実現」の端緒を開くものであります。

なお,本研究成果は,日本時間2020522日(金)公開のChemical Science誌のオンライン版にEdge Articleとして掲載されました。

また,本研究は,文部科学省科学研究費補助金「基盤研究C」(18K05096),「科学技術振興機構(JST),CREST(新機能創出を目指した分子技術の構築)」(JPMJCR14L5),「JST,さきがけ(理論・実験・計算科学とデータ科学が連携・融合した先進的マテリアルズインフォマティクスのための基盤技術の構築)」(JPMJPR16N8),「JST,ERATO(前田化学反応創成知能プロジェクト)」(JPMJER1903),「文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」,「アステラス病態代謝研究会」の支援のもとで行われました。

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計算科学主導によるジフルオログリシン誘導体の化学合成