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気象衛星による"台風の目"の中の風の観測に初めて成功~台風の強度推定の向上への貢献に期待~(地球環境科学研究院 教授 堀之内武)

2020年6月1日
北海道大学

ポイント

●「ひまわり8号」の機動観測により,静止気象衛星による台風の目の中の風速の観測に初めて成功。
●短時間で強度変化と,それに関わる目の中の渦を検出。
●社会に発信される台風情報(強度・構造)の改善と,進路・強度予報の向上につながると期待。

概要

北海道大学大学院環境科学院博士後期課程1年の塚田大河氏と,同学院及び同大学院地球環境科学研究院の堀之内武教授は,「ひまわり8号」をはじめとする新世代の静止気象衛星で実現した高頻度の観測を利用して,台風の中の雲の動きから風を観測する新しい手法を開発しました。これを,超大型で,日本の研究グループによる航空機観測が実施された2017年の台風21号の観測データに適用し,目の中の雲の動きから回転の速さの分布を導くことに成功しました。目の中の雲は,大気境界層と呼ばれる,地表面から高度2 km程度までの領域の上端付近に主に存在します。台風に伴う回転運動は,境界層の上端付近で最も強くなるので,ここでの風速の水平分布が得られることは,台風の強度8や構造の把握に役立ちます。また,この高度の風速は地表付近での風速との対応も良いため,被害予想にも役立つことが期待されます。

本研究によって,目の中にメソ渦と呼ばれる小さな渦が繰り返し発生し,回転の速さが数時間で増加したことが明らかになりました。これは,メソ渦による混合によって台風の構造が変化したことによると考えられます。このような過程が,観測から確認されたのは世界で初めてです。

研究グループは,気象庁気象研究所,横浜国立大学などと共同で,新世代静止気象衛星の観測を台風の診断と研究に活用する世界的にもユニークなプロジェクトを実施しており,台風の構造を診断しその変動要因を明らかにすることに加えて,社会に発信される台風情報の改善につなげて,防・減災に貢献することを目指しています。その実現には,検証手段となる航空機観測を充実させることが重要であるため,最近日本学術会議が発表した,航空機観測に関する大型研究マスタープランの実現が待たれます。

なお,本研究成果は, 2020528日(木)公開のGeophysical Research Letter誌に掲載されました。

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200601_pic.png

ひまわり8号による2017年の台風21号の可視画像(左下にはめこみ)を3次元モデリングソフトによって立体的に投影したもの。