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土地利用の方法が鉱山由来の鉛暴露量に影響する~トカゲに着目したフィールドリサーチから~(獣医学研究院 教授 石塚真由美,助教 中山翔太)

2020年7月9日

ポイント

●土地利用方法の違いを客観的に分類し,鉛への暴露量に影響する環境因子として解析に利用。
●裸地に住むトカゲには緑地に住むトカゲよりも高濃度の鉛が蓄積する傾向があると判明。
●肺に高濃度に鉛が蓄積する例から,植生が粉塵の発生とそれに由来する暴露量を低減する可能性。

概要

北海道大学大学院獣医学研究院の石塚真由美教授,中山翔太助教,中田北斗博士研究員, 北海道大学獣医学部学士課程の銅谷理緒氏とザンビア大学獣医学部のジョン・ヤベ講師らの研究グループは,ザンビア共和国カブウェ市の鉱山跡地周辺でトカゲ科のTrachylepis wahlbergii を採取し,肝臓,肺,血液,胃内容物及び生息地の土壌中の鉛濃度を測定しました。その結果,鉱山の近くでは土壌で23,794 μg/g, トカゲの肝臓で200 μg/gと高濃度の鉛が検出され,これまで研究されてきた家畜や野生哺乳類に加え,爬虫類でも鉛への暴露が深刻であることが示されました。

また,衛星画像解析により採取地点の土地利用方法を客観的に分類し,他の環境因子とともに生体中鉛濃度の解析に組み込みました。その結果,生息地が鉱山に近く土壌中の鉛濃度が高いほどトカゲ生体内で鉛の濃度が高く,さらに裸地(雨季でも植生がない)に住むトカゲでは濃度が高く,反対に緑地(雨季には常に植生がある)に住むトカゲでは鉛濃度が低くなる傾向が見られました。また,餌を介した暴露では鉛が分布しにくい肺で鉛濃度が高い個体は,全体の19%に及びました。これは,経口暴露に加えて鉛を含んだ砂塵を吸入することによる経気道暴露が生じていることを示唆しています。これらの点に加え,植物には地表からの砂塵の発生を抑える効果が知られていることから,都市化の過程で植生が減少すると,砂塵を介した生物への鉛暴露量が上昇してしまう可能性が考えられます。今回の結果から土地利用方法や植生の変化が汚染物質の暴露経路に与える影響に注目していく必要性が示唆されました。

今後これらの調査結果はザンビア政府と共有され,鉛汚染や環境からの暴露を低減させるための計画を作成する際の情報として役立てられる予定です。

なお,本研究成果は202063日(水)に米国科学雑誌Environmental Science & Technology誌にオンライン公開されました。

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研究概要図[左]と調査対象としたTrachylepis wahlbergii(カナヘビの仲間)の写真[右]