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忘却能⼒を持つ動的記憶素⼦の構築〜⼈間の脳の動的な記憶・忘却挙動に触発されて〜(創成研究機構化学反応創成研究拠点 教授 龔 剣萍(グン チェンピン))

2020年7月28日

ポイント

●制御された記憶・忘却機能を備えた,脳に類似した動的ハイドロゲル記憶素子の構築に成功。
●この記憶素子は,重要でない情報を自発的に選別し,忘れることが出来る。
●ソフトマターによる新しい非平衡インテリジェントデバイスとして期待。

概要

北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)・大学院先端生命科学研究院・国際連携研究教育局の龔 剣萍(グン チェンピン)教授らの研究グループは,人間の脳に類似した動的な記憶・忘却機能を備えた素子を,脳と同様のソフトマターであるハイドロゲルによって構築しました。

私たちの脳の記憶は動的であり,重要でない記憶を自発的に忘れる機能を備えています。記憶の忘却は悪いことに思えるかもしれませんが,脳は不要な情報を忘れることによって高い情報処理効率を得ていると考えられています。対照的に,ハードディスクなどの既存の人工記憶素子は静的であり,不要な記憶を自発的に選別し,忘れる機能は有していません。

研究グループは,動的結合(イオン結合や水素結合など)を含むハイドロゲルを利用することで,重要でない情報を忘却する能力を備えた動的記憶素子を実現しました。これらのハイドロゲルは,熱による学習を通じて2次元画像情報を記憶することができます。こうして記憶された情報は,ある情報忘却時間が経過すると自発的に失われますが,この情報忘却時間は,人間の脳の場合と同じく,学習強度とともに増加させることが可能です。このような動的な記憶現象は,熱刺激後の冷却過程で形成される過渡的な構造フラストレーションに起因します。

柔らかくて水を含むハイドロゲルを使って,脳のような記憶を忘れる機能が構築出来る概念を提案し,実現するのはこれが初めてです。情報選別能を有する非平衡インテリジェントデバイス,一定時間後に書き込んだ情報が消去されるセキュリティペーパーなどとしての応用が期待されます。

なお,本研究成果は,2020728日(火)公開のProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)誌に掲載されました。

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